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村上春樹をめぐるメモらんだむ

現代作家として国際的に高い評価を受けている村上春樹さん。小説の執筆だけでなく、翻訳に、エッセーに、ラジオDJにと幅広く活躍する村上さんについて、最新の話題を紹介します。

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30年前の村上春樹をめぐる「伝説のライブ討論会」の書籍刊行

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加藤典洋ほか著「村上春樹のタイムカプセル 高野山ライブ1992」(而立書房)
加藤典洋ほか著「村上春樹のタイムカプセル 高野山ライブ1992」(而立書房)

 かつて「村上春樹をめぐる冒険 ライブ・ヴァージョンin高野山」と銘打つ徹夜の討論会が行われた。時は30年前の1992年2月22日夕方から翌朝にかけて、場所は和歌山県の高野山宿坊・龍泉院。大阪の古書店主らが主催し、文芸評論家の加藤典洋(当時43歳=以下同)、評論家の小浜逸郎(44歳)、哲学者・文芸評論家の竹田青嗣(44歳)、社会学者の橋爪大三郎(43歳)の4氏がパネリストを務めた。いずれも当時43歳の村上さんと同じ「団塊の世代」、すなわち大学在学中に激しい紛争を経験した、いわゆる全共闘世代に当たる。【大井浩一】

加藤典洋さんら全共闘世代が集結

 ライブ討論の模様は毎日新聞92年3月17日夕刊文化面に、「団塊の世代たちに『物語』は可能か」の見出しでリポートされている(池田知隆記者執筆)。当時、東京の八王子支局勤務だった筆者がこのイベントの存在自体を知っていたかどうか、もはや定かでない。ただ、「ライブ・ヴァージョン」となっているように、前提として、加藤、竹田および、これまた同世代の作家、笠井潔(43歳)の3氏による鼎談(ていだん)本『対話篇(へん) 村上春樹をめぐる冒険』が91年に出ており、これは読んでいた。

 前置きが長くなったが、その「伝説のライブ討論」の記録が2022年5月、『村上春樹のタイムカプセル 高野山ライブ1992』(而立書房)として刊行された。イベント開催当初から出版計画はありながら事情により実現しなかったものが、30年の時を経て刊行に至ったきっかけは、3年前に加藤さんが亡くなったことにあるという。加藤さんが村上文学を熱心に論じ続けたことについては当コラムで何度も触れてきた。

 今回の本の企画で中心的な役割を果たした森ひろしさんの文章「この本の成り立ちについて」によると、イベント主催者らには「一九六〇年代の社会変革の運動に身を挺(てい)したにもかかわらず志を得なかった世代が、失語状態におちいり、村上春樹の文学作品に接して次第に言葉をとりもどすという、『リハビリ』にも似た体験を思想化したいという動機(モチーフ)があった」という。このモチーフは先の鼎談とも共…

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