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核保有国や「核の傘」の下にある国が核抑止力に頼り、依存を減らそうとしない現状に強い懸念が表明された。保有国や日本は重く受け止めるべきだ。
ウィーンで開かれていた核兵器禁止条約の第1回締約国会議が、核廃絶に向けた決意を示す政治宣言を採択して閉幕した。
ロシアがウクライナに侵攻するさなかである。プーチン露大統領が核の使用を示唆したことを念頭に、宣言は「いかなる形での核の威嚇も非難する」と強調した。
条約は65カ国・地域が批准している。このうち49カ国・地域が出席し、34カ国がオブザーバー参加した。
米露中など核を保有する9カ国は条約に入っておらず、同盟国にオブザーバー参加しないよう求めた国もあった。
保有国が歩み寄る時だ
そもそも核禁条約ができた背景には、保有国による軍縮が進まない状況がある。
保有国を中心としたジュネーブ軍縮会議は核拡散防止条約(NPT)や核実験全面禁止条約(CTBT)の作成に役割を果たしたが、近年は目に見える成果を上げていない。
NPT体制にもほころびが目立ち、2015年の再検討会議で最終文書を採択できなかった。CTBTは米国などが批准していないため、発効さえしていない。
中国の台頭もあって米露間の核軍縮交渉も進まず、中距離核戦力(INF)全廃条約は失効した。
米露中英仏の保有5カ国は特権的地位を享受するだけで、軍縮義務を怠ってきたことを反省し、非保有国に歩み寄る必要がある。
保有国側が固執する抑止論は、核兵器を使おうとすれば、相手国からの核攻撃を覚悟する必要があるため、使用を思いとどまるという論理だ。
ただ、米露が「使える核兵器」と呼ばれる小型核を開発し、テロ組織が核技術を入手する可能性が高まっている今、抑止効果は疑問視されている。
しかも、国際司法裁判所は、核の威嚇は国際人道法に違反すると判断している。抑止論は核禁条約に背を向ける口実にならない。
唯一の戦争被爆国である日本の姿勢も問われた。締約国や平和団体などからの呼び掛けにもかかわらず、オブザーバー参加しなかった。保有国が加わらない枠組みには実効性がないとの理由だ。
対照的に、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、日本と同じく米国の「核の傘」の下にあるドイツ、ノルウェー、ベルギー、オランダは参加した。
ドイツやオランダの代表は「NATO加盟国としての立場と一致しない」と自国の事情を説明しながらも、会議に出ることで非保有国とのつながりも重視した。
「橋渡し」放棄した日本
核廃絶は日本の目標でもある。一方、核を保有する中露、北朝鮮に囲まれ、厳しい安全保障環境の下、米国の「核の傘」に頼らざるを得ない。
こうした立場にあるからこそ、保有国と非保有国の溝を埋める役割が期待された。不参加は「橋渡し」役を放棄したに等しく、極めて残念だ。
一方、会議では、保有国との対話のパイプを作る取り組みも始まった。NPTとの協力を探る担当官を設けることが、行動計画に盛り込まれた。
保有国を含む世界の大半の国が加盟するNPTがきちんと機能しなければ、核軍縮が進まないのは事実だ。保有国には、核禁条約を対立するものと考えず、軍縮に生かす知恵が求められている。
岸田文雄首相は8月のNPT再検討会議に出席する予定で、来年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催も決めた。
次の核禁条約締約国会議は来年11~12月に開かれる。首相が本気で核問題に取り組むつもりがあるなら、今度こそオブザーバー参加を決断する責任がある。
「『核兵器のない世界』という目標は極めて高い山の頂上に似て、今は見えない。それが見えるよう登山コースを描かなければならない」
キッシンジャー元米国務長官らは08年、米紙に共同寄稿し、「核なき世界」への道筋をこのように描いている。
核禁条約を、高みを目指す登山コースの一つに育て、核廃絶という頂上に向けて国際社会が協力する契機とすべきである。