- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷

職場で働きが悪く、影の薄い中高年男性を「妖精さん」と呼ぶのだという。出社したかと思えば、いつの間にか姿が見えなくなるからだ。その割に高収入で、経営陣からは「負債」とみなされ、若い世代からは「給料泥棒」と煙たがられてしまう。しかし、それはおじさんだけの問題なのだろうか。現在、40代の私(男性記者)はだいぶ不安だ。「中高年男性の働き方の未来」の著者で、日本総研創発戦略センタースペシャリストの小島明子さん(46)に話を聞くと、実はおじさんたちの「やる気」は意外に結構高いのだという。【安藤龍朗】
「妖精さん」とは?
働かないおじさんを「妖精さん」として取り上げたのは、2019年の朝日新聞が最初とみられる。雑誌やテレビなども紹介し、「妖精さんは私の職場にもいるかも」と、SNS(ネット交流サービス)などで認知度を高めていった。
比較的大きな企業で働く50代の男性。もう昇進もなければ、目立った仕事もない。ふわふわと手持ち無沙汰に過ごしていても、会社は静観するだけなので、若手社員には不満が蓄積されていく。そのモヤモヤ感を「妖精さん」という表現があらわにしたようだ。
「妖精さん」が含まれているかは分からないが、小島さんが実施した中高年男性の傾向を示すアンケート結果がある。19年、東京都内の民間企業に勤務し、4年制大学、または大学院を卒業した45~64歳の男性1794人を対象に働き方に対する意識と生活実態に関するアンケートを行った。卒業大学の入試偏差値をもとに回答者を四つのグループに分けた。
小島さんは調査対象を決めた狙いをこう説明する。
「中高年男性をどう活躍させたらいいのか、問題意識を強くもっているのは大企業です。大企業には高学歴な方が多い。この層がどう考えているかをデータで明らかにする必要があると考えました」
その結果、中高年男性はモチベーションを失ってはいなかった。
「もっと成長したいとか、自分のスキルを生かしたいとか、本人としてはやる気があることがデータから分かりました。そして、高学歴な方ほど再就職に不安を感じています」
アンケートは、「外的報酬」に対する欲求▽「内的報酬」への欲求▽ハードワーク許容度――の三つの要素から、働くことをどう考えているかを探った。
外的報酬は、給与や会社での地位の確保など。内的報酬は、仕事を通じて得られる自己成長や、仕事自体の面白さ・楽しさなど「やる気」に関するもの。ハードワーク許容度は、仕事による肉体的な疲労、精神的ストレスや、あきらめなければならないプライベートの時間などになる。
給与欲求は低下?“やる気”は変わっていない?
「より高い報酬を得るために働くことが重要だ」との設問に「そう思っていた」「強くそう思っていた」と答えたのは計43・1%。就職活動時点では計54・8%で、給与に対する欲求は低下している。
一方、「自己成長のために働くことが重要だ」との設問では、アンケート回答時点で計55・7%、就職活動時点は計58・0%となり、会社生活でさまざまな経験をしても、あまり下がってはいなかった。
大きく低下したのはハードワーク許容度。例えば「やりたい仕事であれば、仕事以外の時間が削られても仕方がない」の設問では、アンケート回答時点が29・8%、就職活動時点は49・3%だった。
アンケート結果から、小島さんは分析する。
「中高年の多くは定年退職に近づくにつれ、自分の裁量がなくなったり、報酬が下がったりしていきます。やる気がなくなる職場環境になっているのに、内的報酬は高いままなんですね。職場が活躍できる機会を提供すれば、いきいきと働けるのだと思います」
言い換えれば、自分を高めたい、面白い仕事をしたい気持ちは強い。でも、昇進や給与が今後どうなるかはある程度分かっている。心も体も時間も、若いときほどは、会社にささげられない。「頑張ろう。頑張りたい」。胸でくすぶる気持ちをどう生かせるかが、企業にとっても個人にとっても大きな課題のようだ。
では、中高年男性の「やりがいのある仕事をしたい」という欲求はどうすれば満たされるのか…
この記事は有料記事です。
残り1741文字(全文3436文字)