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ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

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「制裁に効果はあるの?」 ロシア人留学生への取材を通じて感じた疑問

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ルーブル札(写真はイメージ)=ゲッティ
ルーブル札(写真はイメージ)=ゲッティ

 泣きじゃくる彼女にかける言葉が見つからなかった。ロシアによるウクライナ侵攻の被害は、ロシアの国民にも経済制裁の影響として降りかかっている。政治家たちが言うように制裁には戦争を抑止する効果があるだろうか。侵攻後、日本に到着したロシア人留学生のナターシャさん(仮名)を取材し、疑問がさらに深まった。【大野友嘉子】

 「ロシアがウクライナにしていることは許されないけれど、世界のこれまでの最悪なことは米国が行ってきました。ベトナム戦争、ソマリアへの空爆などです。だけど、米国は責任を問われたでしょうか。世界はロシアにはこうも厳しいのに……。今や世界中がロシア人を嫌っています」

 取材中、ナターシャさんが急に泣きじゃくり、割り切れない思いを訴えてきた。経済制裁の影響でロシアの両親からの仕送りを受け取れなくなってしまった。「制裁だから仕方がない」と言いかけて言葉をのみ込んだ。ナターシャさんはプーチン大統領支持者でも軍関係者でもない。それどころか来日前は危険を顧みず侵攻反対のデモに参加しようとしたこともあったという。

ロシアからの逃避行

 初めてナターシャさんと話したのは、彼女が来日して1カ月ほどたった4月中旬だった。あどけなさが残る天真らんまんな雰囲気。ロシアにいる家族に危険が及ばないようにと匿名を条件にオンライン取材に応じてくれた。

 ナターシャさんは、ロシアの政治の腐敗や治安の悪さについて、流ちょうな英語で説明した。聞けば英語のほかにフランス語やドイツ語も話せるのだという。

 両親と祖母は、かねてロシアには希望がないと思い、ナターシャさんには安全で、生活水準の高い国に「escape(逃げる)」することを願っていた。祖母は、孫のナターシャさんの留学費用をユーロ建てで貯金してくれていた。

 しかし、日本を含む主要国は対ロシア制裁の一つとして、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの主要銀行を排除した。仕送りを受けられなくなったナターシャさんは制裁の影響を正面から受ける形になった。

 アルバイトを始めても、給料が入るまでは手持ちの学費を取り崩すしかない。留学ビザで入国しているので、学費が払えなくなれば、日本にはいられなくなる。苦労して持ち込んだ手持ちの現金は底を突きかけているという。

家族と会えなくても仕方ない

 制裁を考える前に、ナターシャさんの成育歴や日本での暮らしぶりを紹介したい。

 ナターシャさんは日本での大学受験に向けて、日本語学校に通っている。大学で日本語ともう1カ国語を学び、ゆくゆくは日本で就職したいという。治安が良く、就職の機会が多い日本は、幼い頃から憧れた国だという。

 「ロシアに戻るつもりはありません。今戻れば、二度と日本に帰ってこられないかもしれませんから。家族にはもう会えないでしょう。仕方ないと思っています」

 家族は、ナターシャさんを留学させるのに精いっぱいで、外国への移住はおろか、旅費を捻出することさえも難しく、来日するのは極めて難しい状況だ。

 家族と会えないという重い話だが、驚くほどあっさりとした口調だった。湿っぽくなる余裕などないのかもしれない。家族に背中を押されて「逃げて」来たナターシャさんは、何としても日本で生活の基盤を築きたいのだ。その強い覚悟に圧倒された。

心を揺さぶられ

 4月下旬。2週間ぶりにパソコン越しに対面したナターシャさんは最初、変わった様子はなかった。飲食店と語学学校でのアルバイトを始め、学校には格安で手に入れた自転車で通っていると話した。昼間は学校、夜はアルバイトという多忙な日々を送っていたが、表情ははつらつとしていた。

 国際送金の仕送りが受け取れないため、バイト代が入るまではロシアから持ち出したお金で家賃や食費を払っていた。

 食費を抑えるため、朝昼晩は自宅でふりかけご飯とゆで卵を作っているという。私が彼女の食生活を心配すると、「ロシアにいるくらいなら、…

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