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香港が英国から中国に返還されて25年を迎える。高度な自治を保障した「1国2制度」は揺らぎ、社会制度を50年間変えないとの約束は破られてしまっている。
英国や香港の意見も反映し、立場の違いを超えて歩み寄った国際公約だったはずだ。習近平指導部が一方的に中国化を推し進めた結果、国際社会の不信を招いた。
返還当時、香港市民が抱いた「祖国との融和」に対する思いは裏切られた。経済の一体化が進むほど、民主化や自由などの価値観を巡る摩擦は深刻になった。
1国2制度の内包する矛盾が、2019年以降の大規模デモで露呈した。習指導部は自治を否定する直接介入に踏み切り、頭越しに香港国家安全維持法(国安法)を定めた。強硬姿勢の背景には米中対立への危機感もあっただろう。
苛烈な言論弾圧で自由な社会は一変した。天安門事件の追悼集会は許されなくなり、政府に批判的な報道機関が解散に追い込まれた。摘発や密告を恐れる市民の間で自己検閲が広がっている。
民主化の希望も断たれた。習指導部は「愛国者による統治」を掲げて選挙制度を見直し、民主派を政治から排除した。
欧米からの批判に、中国は「国安法によって社会が平穏を取り戻した」と反論する。隣接する広東省やマカオとの一体的開発を進め、実利によって香港市民を懐柔しようとしている。
しかし、世界と中国を結ぶ国際金融センターであることが香港の強みだ。米中対立のあおりを受ける中国企業にとって、その重要性は増している。香港の独自性を奪ってしまえば、そうした機能が十分に果たせなくなる。
人材の流出は加速し、外国企業の撤退が相次ぐ。社会の閉塞(へいそく)感も強まっている。
香港で開かれる返還25年の記念式典には、習国家主席が出席する。コロナ禍が始まってから中国本土外を訪れるのは初めてだ。政権3期目を目指す共産党大会を控え、自らの政策を正当化する機会と位置づけているのだろう。
だが、いくら美辞麗句を重ねても、約束を守らなければ信頼は得られない。独善的な振る舞いが国際社会にどう映っているのかを自覚すべきだ。