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コロナ禍の困難な時を経て、クラシック音楽界にも変化の波が確実に押し寄せている。新譜CDでも、その流れは顕著だ。
<BEST1>ノット&東響 マーラー:交響曲第1番「巨人」
ジョナサン・ノット(指揮)/東京交響楽団
エクストン OVCL-00758

<BEST2>江崎浩司 ヤコブ・ファン・エイク:笛の楽園 Vol.8
江崎浩司(リコーダー、ほか)
ヤコブ・ファン・エイク:「笛の楽園」よりNo.127ローラ、No.128われらに幼子が生まれ、No.129詩篇116番わたしは主を愛する、ほか
フォンテック FOCD9866

<BEST3>コロン&フィンランド放送響 シベリウス:交響曲第7番ほか
ニコラス・コロン(指揮)/フィンランド放送交響楽団
シベリウス:交響曲第7番ハ長調Op.105(1924)、組曲「クリスティアン2世」Op.27(1905)、組曲「ペレアスとメリザンド」Op.46(1905)
オンディーヌ NYCX-10305


外国人指揮者をシェフに迎えた在京オーケストラのなかでも、ジョナサン・ノットと東京交響楽団の深い結びつきは、一頭地を抜く域に達したと思う。コロナ禍にあっても、リモート方式で指揮台にタクトを執る映像を流して「共演」を図ったり、間隙(かんげき)をぬって電撃来日を何度も敢行したり、ノットの諦めない粘りと責任感は涙ぐましいほど。その重みは聴衆も楽員も肌身に感じていて、ノットが登場するステージへの期待感はきわめて高い。
2021年5月にミューザ川崎シンフォニーホールで収録されたマーラー「巨人」のライブ盤にも、その独特の熱量が活写されている。この時も公演が危ぶまれたが、曲目変更で急場をしのぎ、無事コンサートが開かれた。管楽器のこまやかな動きなど細部まで神経の行き届いた入念な表情と、ライブらしい感興あふれるうねりが相まって、わたしも会場で体感した熱い興奮を思い起こしてくれる。
国内屈指のリコーダー奏者、江崎浩司氏が昨年末、50歳で急逝された。ここ何年かはライフワークとして、17世紀オランダで活躍したリコーダーの名手ヤコブ・ファン・エイクによる大作「笛の楽園」の全曲録音へ、集中的に取り組んでいた。2021年4月に収録を終えた最後の第8巻が、くしくも遺作となった。さまざまなリコーダーや笛を神業のように操り、ひとつの旋律が複雑に変容していくさまを鮮やかに提示。そのマジックに引きつけられる。
海外の著名楽団では、気鋭の指揮者を大胆にトップへ起用する流れが強まっている。フィンランド放送響はわずか一回の共演で、首席指揮者に英国の新鋭ニコラス・コロンを抜てき。さっそく初録音のシベリウスが登場した。温かい情感と手厚いハーモニーにあふれ、作品への深い共感が明らか。指揮者の非凡な資質が表れている。古豪に新風を送り込んでくれそうだ。
筆者プロフィル
深瀬 満(ふかせ みちる) 音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。