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「学研の科学」復刊 アリの巣観察のワクワク、知らない世代にも

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1976年の「科学」の付録だった、成人の6分の1サイズの人体骨格立体モデル(中央)=東京都品川区で2022年6月8日、内藤絵美撮影
1976年の「科学」の付録だった、成人の6分の1サイズの人体骨格立体モデル(中央)=東京都品川区で2022年6月8日、内藤絵美撮影

 カメラに顕微鏡、アリやカブトエビの飼育セット、人体骨格の標本――。子どもの頃、夢中になって付録を組み立てた人も多いのではないだろうか。学研が発行していた小学生向けの付録付き雑誌「科学」は、兄弟誌の「学習」とともに最盛期に670万部を記録したマンモス雑誌。少子化などで休刊していたが、12年ぶりの今夏、復刊するという。うれしい知らせに、あの頃のワクワクがよみがえる。新しい「学研の科学」に込められた思いを聞きに、編集長に会いに行った。【大沢瑞季】

アリの巣を観察、乾燥卵からカブトエビ……

 「わー、懐かしい!」。東京都品川区にある学研ホールディングスの本社ビル。地下1階のギャラリーにずらりと並ぶ、歴代の「科学」の人気付録を見て、思わずショーケースに張り付いた。

 私(記者)も小学生だった1980年代に愛読し、磁石で砂鉄を動かしてひげを形作るセットや、アリを飼育して巣を観察するキット、乾燥卵からカブトエビを誕生させて育てる付録などを作った。アリを捕まえて飼ってみた時のドキドキ、うまく巣を作ってくれなかった失敗の悔しさが、ありありとよみがえる。ショーケースの中の少し色あせた過去の付録たちを目の前にすると、一気に小学生の頃に時間が戻った気がした。

小学生の3分の2が愛読

 出版不況の今では考えられない部数を誇っていた学研の「科学」。学研の創業者・古岡秀人の「戦後の復興は教育をおいてほかにない」の信念のもと、子どもたちに良質な学びを提供したいという思いから63年に創刊された。翌年には東京オリンピックを控え、科学技術の進歩が著しい高度経済成長期だった。当時の付録には、ガラスを使った試験管セットや、東京大医学部から借りた本物の人骨を模した「人体骨格モデル」など、シンプルなデザインながら、本格的なものが目立つ。

 かつてのテレビCM「まだかな、まだかな~、学研のおばちゃん、まだかな~♪」を覚えている人も多いだろう。その歌のフレーズ通り、教材を毎月、学校や家に届ける販売方式だった。小学1~6年生の学年ごとの月刊誌で年間72号を作り、最盛期の79年には、兄弟誌の「学習」と合わせて670万部を記録。当時の小学生は約1000万人だったので、約3分の2が愛読していたことになる。

少子化で2010年に休刊

 そんな“国民的雑誌”も、少子化の波には逆らえなかった。親の共働きによる留守宅の増加なども進み、家を訪問する販売方式も時代に合わなくなった。部数は右肩下がりとなって低迷し、2010年に休刊した。

 新しい「学研の科学」の編集長である吉野敏弘さん(46)は、その休刊を見届けた一人。当時は、入社して12年目の編集部員だった。20代から、歴史ある「科学」の編集部に在籍し、ベテラン編集者の背中を見て働いていた。「先輩方は科学の楽しさを伝える意義を真剣に信じ、多くの読者に囲まれ、やりがいを感じてきました。そういう雑誌が、世の中から受け入れられなくなることは、すごく悲しいことでした」

 吉野さんは「知的好奇心を高める教材よりも、学校の成績に直結する通信教材や塾のニーズが高まっていた」と休刊当時を振り返る。「時代の要請と商品がマッチしなくなっていた。僕らは『科学』の体験が、子どもたちの栄養になると信じていたけれど、それを説得力のあるストーリーとして読者に提示できなかったと思います」

科学は子どもの可能性広げる“栄養”

 休刊によって、編集者やカメラマン、デザイナー、イラストレーターなどの大所帯が解散となった。だが、それまで3000以上の付録を作ってきたノウハウは残っている。それを生かした商品を開発しようと、旧「科学」の編集部メンバーによる試行錯誤が始まった。

 「親は何を求めているのか?」「学習指導要領の要点は?」「塾と比べて優位に立つ点は?」。世の中が必要とするものは何か、マーケティング視点で徹底的に議論した。付録だけを市販したり、漫画で科学を紹介するシリーズを始めたり――。だが、さまざまな試みの多くは、あまりうまくいかなかった。「自分たちが何を届けたいのかを考える前に、マーケティングが先に立っていたと思います」

 失敗を続けるうち、「学研の科学がやりたいことは何か」という原点に立ち返った。「僕たちは、科学は子どもたちの可能性を…

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