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参院選の投票日を迎えた。
自民党の安倍晋三元首相が銃撃されて死去するという衝撃的な事件の直後、異例の状況下で日本の針路が問われる。
まず改めて確認したい。暴力によって命を奪い、言論を封じる凶行は断じて許されない。民主主義の基盤を揺るがすものだ。
与野党が政治的立場の違いを超え、「暴力に屈しない」というメッセージを発したのは当然だ。
事件は投票日のわずか2日前に起きた。多くの政党が選挙活動を急きょ中止したが、最終日のきのうは遊説を行った。
国民の暮らしを良くするための活発な意見表明と論争は、民主政治の基本である。暴力や威嚇によって脅かされることがあってはならない。
凶行にひるまぬ姿勢で
動揺している有権者も多いだろう。だが、銃弾や刃物には、日本の方向性を定める政治家を選ぶ力も、退場させる理もない。
事件によって、今回の参院選はこれまで以上に重い意味を持つことになった。有権者が1票を投じることが、民主社会を守り抜く行動となる。
この参院選は元々、極めて重要なものだ。
岸田文雄内閣が昨年10月に発足して約9カ月が過ぎた。昨秋の衆院選は首相の就任直後に実施されたため、今回が、政権運営に対する初めての評価となる。
ロシアによるウクライナ侵攻で従来の国際秩序が揺らぐ中、日本でも多くの課題が浮き彫りになっている。
とりわけ物価高は国民の暮らしを直撃している。
与党は、ガソリン価格を抑制する補助金の継続などをアピールした。しかし、生活必需品の値上げに苦しむ家計への支援策や、賃上げを後押しする具体的な施策は示せていない。
これに対し、立憲民主党など大半の野党は消費税の減税や廃止を主張するが、代替となる財源は不明確なままだ。
東アジアにおける緊張の高まりへの懸念を受け、自民党は防衛費の増額を事実上公約した。
ところが、国民の関心が物価に集まると、首相も演説などで防衛費に言及する機会が減った。一部の野党から財源について追及されたが、論戦は深まらなかった。
物価高や安全保障以外にも懸案は山積している。
少子高齢化が進む中で、医療や介護・年金などの社会保障制度をどう維持していくのか。1000兆円超の国債発行残高を抱える財政をどう立て直すのか。いずれも道筋が見えない。
そもそも参院選は、政権選択選挙と位置付けられる衆院選に比べて、国民の関心が高まりにくいと指摘されている。
報道各社の事前調査で自民党の優位が伝えられる中、「投票しても、どうせ政治は変わらない」という諦めに似た声もある。
未来への選択を冷静に
しかし、議会制民主主義を機能させるには、多くの有権者が投票することが欠かせない。
過去には、参院選の結果が国政に大きな影響を与えたケースが少なくない。事前の議席予測と結果が異なった例もある。
今回の投票機会を逃した場合、全国の有権者が参加できる国政選挙は、衆院解散がない限り、3年も先になる。
そうした中、政策論争だけでなく、投票率の動向も注目される。10~20代に加え、30~40代でも選挙に行かない人が増えている。
だが、当選した議員たちが定める法律・制度の恩恵も欠陥も、より長く影響を受けることになるのは若い世代だ。
今後の暮らしと政治についてしっかりと考えた上で、貴重な投票権を行使してほしい。
ベストな候補者や政党が見つからなければ、自分が重視する政策で考えが近い人を選んだり、望ましい国会の姿から投票先を決めたりするのも一案だ。
今回、全候補者に占める女性の割合が国政選挙では初めて3割を超えた。社会の多様性を確保するという観点も、判断材料の一つになるだろう。
日本と世界を不安が覆い、先行きが見通せなくなっている。だからこそ冷静に、未来を決める選択が求められる。
有権者一人一人が自覚を持って政治参加する。その行動が、日本の民主主義を強固にする。