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ロシア軍がウクライナに侵攻。米欧や日本は対露制裁を決めるなど対立が先鋭化しています。

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ウクライナ侵攻 映画「ドンバス」が映し出すもの ナショナリズムの暴力性 「世界市民」目線、貫く監督

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映画「ドンバス」の一場面=サニーフィルム提供
映画「ドンバス」の一場面=サニーフィルム提供

 4年前に日本で上映されなかった映画が、5月に緊急公開された。その後、上映が全国各地に広がる作品のタイトルは「ドンバス」。ウクライナ侵攻以降、この地名を新聞やテレビでよく目にする。近現代ロシア史を専門とする東京大准教授の池田嘉郎さん(51)に、この映画が問い掛けるメッセージについて聞いた。

 ウクライナ東部のドンバス地方は、ドネツク州とルガンスク州を合わせた炭鉱地帯である。2014年、この地方の一部がウクライナから一方的に独立を宣言し、親ロシア派勢力「分離派」によって実効支配されている。ロシア系住民が多く、親ロシア派の政治工作によりウクライナ系住民との分断が深まり、武力衝突が日常的に起きている。

 この地方を舞台にした映画が製作されたのは18年。ウクライナ育ちの鬼才、セルゲイ・ロズニツァ監督が、戦闘や暴力、汚職がはびこる日常を皮肉を込めて映し出した。同年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した。

 映画はドキュメンタリーではなく劇映画。ロズニツァ監督の取材や投稿動画に基づいた事実を肉付けし、13のエピソードにまとめている。最初のエピソードは、俳優たちがフェイクニュースを収録する現場が描かれている。警察組織から財産を奪われる民間人や、支援物資を横領する医師も登場する。

 現実の親ロシア派勢力とウクライナ軍の武力衝突では、フェイクニュースやプロパガンダを駆使して情報戦が繰り広げられた。戦時下で思想統制や世論誘導に翻弄(ほんろう)される人々や、抑圧や暴力が日常化した社会に憎しみや不信を募らせていく人々。スクリーンを通してその姿を見ていると、公開から4年後に起こるウクライナ侵攻を予見していたかのようである。

 池田さんにそう伝えると、現代史の視点から説明してくれた。「ウクライナ侵攻は今年2月に始まりましたが、ウクライナの人にとっては突然起こった出来事ではありません。14年にロシアは南部のクリミアを併合し、東部の親ロシア派勢力を後押しして、かいらい国家をつくった。その時点で『戦争』は始まっていたのです」

 池田さんによると、この映画はドンバスの状況を的確に捉えている。ロシア側の不条理な攻撃や抑圧の本質は、14年から変わらないという。ただ、ドンバスの内戦とウクライナ侵攻を同一視することには慎重だ。「今は全面戦争となり、撮影当時から深刻度が増している。18年の映画を見るだけで、今日の戦争やこれまでの内戦を理解するのは難しいが、本質を理解するうえでは有益です」と指摘する。

 公式パンフレットで作品を解説している池田さんが印象に残ったのは、終盤の結婚式のエピソードだという。新郎新婦を祝う場面の前には、ウクライナ兵の捕虜を親ロシア派住民が集団でリンチする場面がある。リンチに加わった青年は結婚式に参加しており、さらに、青年は新郎に集団暴行した動画を見せ、会場は盛り上がる。

 「暴力がはびこる状態が友達を祝福する場にも波及している。日常の規範が完全に崩壊してしまっているという意味で、あのシーンは印象的でした。とても残酷な一方で、みんなが楽しそうに過ごしている。このコントラストが巧みで、ロズニツァ作品の特色にもなっています」

 池田さんは、ロズニツァ監督の日本語通訳を務めたこともある。「彼は…

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【ウクライナ侵攻】

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