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吃音(きつおん)(どもること)がある人は大人になっても、学校でからかわれた記憶を引きずることが多い。だが、教員の的確な対応で救われたケースもある。そこで香川県の吃音当事者らでつくる「香川言友会(げんゆうかい)」が6月、香川大教育学部(高松市)で出前講座を開いた。将来、教壇に立つ学生たちが吃音の子どもを受け持った時、理解を持って対応できるようにしてもらうのが狙いだ。当事者で、この団体のメンバーでもある私の視点も交えて報告したい。【佐々木雅彦】
「つらさに気づける先生になってほしい」
「小学4年の時、担任の振る舞いに悲しくなりました」。香川言友会のメンバーで、香川県丸亀市に住むパートの女性(28)は6月24日の出前講座で、教室に集まった学生約70人に向けて苦い経験を語り始めた。
吃音には、連発(わわわたしは)、伸発(わ―――たしは)、難発(………わたしは)などの症状がある。特定の言葉が出づらかったり、出せなかったりすることも多い。国内では100人に1人が持つとされる言語障害だが、今も理解は社会に十分に広まっておらず、学校や職場でのトラブルも絶えない。
小学生の時、この女性はクラスみんなの前で発表する日が近づいてきたため、吃音の悩みを相談した。担任の教師は次の授業で突然、クラス全員に向かって「なあなあ、おしゃべりの障害があるんって知っているか」と聞いたという。女性を名指ししないものの、クラスメートに伝わりかねない質問だった。
女性にとっては、悩みを軽んじられているように感じた。学生たちに「私はみんなに話してほしかったわけではありません。せめて事前に『みんなに反応を聞いてみようか』などと相談してほしかった」と打ち明けた。
言友会が開催を働きかけて実現した講座には、特別支援学校教諭の免許取得を目指している3、4年生たちが参加。吃音当事者の団体が大学の教育学部の学生にこうした講座を開くのは珍しく、「つらさに気づける先生になってほしい」との願いが込められている。
吃音の悩みは人それぞれに異なる
女性の悩みは、吃音の当事者やその親たち8人による体験談の中で語られた。ただ、吃音を持つ人たちの悩みはさまざまで、他人から掛けられる言葉の受け止め方も異なる。
この女性とは異なり「吃音のことをクラスメートに自分では言いにくいので、先生に伝えてほしかった」と話したのは、高松市の専門学校生、斎藤稜馬さん(19)だ。これまでの学生生活では担任の先生に「症状が軽いから、全然気にしなくていいよ」と言われた経験もあり「自分では結構大変なのに。大変さをもっと知ってほしかった」と語った。
多くの当事者が苦手とする授業がある。愛媛県新居浜市の喫茶店経営、大森晃さん(68)は「学校では音読の授業が一番困りました」と語った。自分の順番の3人くらい前から胸がどきどきして、頭が真っ白になってしまったという。また、高松市の女性会社員(23)は高校1年の時、先生に問題を当てられても答えは分かっているのに声が出せなかった経験を振り返った。「隣に座っていた生徒が答えを教えてくれたけれど、『分かっているって』と思いながら、何も言えなかった」と教科とは関係のない悩みを打ち明けた。
一方、私は56歳になった今も小学校の担任に感謝している。学生…
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