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AV救済法、当事者の声は届いているか 買われる性、暴力、貧困

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AV新法に反対する集会で掲げられたプラカード。参加者の多くが「性暴力に反対」を表す紫色の風船を手にしていた=東京都新宿区で2022年5月22日、宇多川はるか撮影
AV新法に反対する集会で掲げられたプラカード。参加者の多くが「性暴力に反対」を表す紫色の風船を手にしていた=東京都新宿区で2022年5月22日、宇多川はるか撮影

 アダルトビデオ(AV)の出演被害を防ぐため、議員立法で「AV出演被害防止・救済法」が成立した。法整備を呼びかけてきた支援者らの「被害者の希望につながる一歩」との評価は、被害者らと向き合ってきた強い実感がこもる。一方で、AVの定義に「性交を含む性行為」が明示された点には懸念も残る。その中には、AV出演者だけでなく、性的サービスを行う風俗店に勤務経験がある女性の声もあった。その理由は何か。出会った人たちの声と共に、考えたい。【宇多川はるか】

 新法の素案が明らかになってから、一部の支援者や弁護士は、AVの定義に「性交」を含む性行為を明示したことが、金銭を伴う性交を追認しないか危惧してきた。「AVでの性交自体の禁止を」と求める声も上がったが、立法協議にあたった議員たちは、国会で「既に違法な行為を合法化するものでもない」と強調し、新法にもその旨を明記した。

 それでも、金銭を伴う性行為のありようという重い議題は残っただろう。私たちの社会には、AVに限らず金銭を支払い「性」を売買する現状があり、そこに生きる人たちの姿があるからだ。

 「私たちは、性売買の現場で身体的にも精神的にも痛め付けられ、殺されるかもしれない恐怖を味わいながら生き延びてきました」

 5月22日夕方、JR新宿駅前で開かれた新法を巡る支援者らの集会。「性売買経験当事者の声明」として会場に流された録音の音声内容は、あまりにも重かった。どれだけの力を振り絞って、「当事者」として声を上げたのだろうか。込められた思いを知りたくて、後日、女性たちを取材した。

「自分で選んだ道」か

 「AVと風俗は違うこともあるかもしれないけれど、根本的には同じことだと思うのです」

 18歳で風俗で働き始めたというミキさん(仮名、40代)はそう前置きし、話し始めた。

 アルコールに依存し、暴力をふるう父と、新興宗教に傾倒する母のもとで育った。

 「いわゆる『機能不全家族』で、そこから逃げるために家を出たい一心でした」

 高収入で「誰でもできる簡単な仕事」と求人情報があふれる風俗。これだけ求人があり、働いている人も多いのだから、危ないことはないだろう――。抵抗がなかったわけではないが、そう考えた。「18歳当時の自分にとっては、現実的な選択肢に思えた」

 最初は酒を提供するだけのバーか…

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