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拡大する出生前検査

新型出生前診断(NIPT)の大半が無認定のクリニックで実施されています。誤った結果によって、中絶を考えた妊婦もいます。

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拡大する出生前検査

確定に必要な羊水検査は「賭け」 1カ月後、覆った結果に今も

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次男の手を握りしめる大阪府の女性。妊娠中に受けた新型出生前診断(NIPT)の結果に動揺したが、今は「ここで元気にいてくれるだけでうれしい」と話す=大阪府内で2022年5月9日、原田啓之撮影
次男の手を握りしめる大阪府の女性。妊娠中に受けた新型出生前診断(NIPT)の結果に動揺したが、今は「ここで元気にいてくれるだけでうれしい」と話す=大阪府内で2022年5月9日、原田啓之撮影

 妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)が拡大している。精度が十分に確認されていない項目で、日本医学会の認定を受けていないクリニックが実施。翻弄(ほんろう)される妊婦らの姿を追った。

 連載「拡大する出生前検査」は、全6回です。
 このほかのラインアップは次の通りです。
第1回 結果から逃れたい一心で
第3回 夫婦で悩んだ1カ月
第4回 無認定施設での陽性から一転
第5回 「命の選別」非難に疑問
第6回 出生前検査は受けない

 一度は中絶を決め、手続きをしたその日の夕方。2021年5月、大阪府の女性(37)が電話を取ると、相手は昼間に受診した大阪医科薬科大病院産科・生殖医学科の藤田太輔科長だった。

 女性は、別のクリニックで受けた新型出生前診断(NIPT)で胎児の染色体異常が陽性となり、大学病院で中絶手術を予約していた。「中絶を決めたら決めたでいいが、一度話を聞いてほしい」。女性は「そこまで先生が言うのなら」と再診を約束した。

 この直前、藤田さんは、女性を診察した若い医師から報告を受けた。女性がNIPTを受けたクリニックは日本医学会の認定を受けていない無認定施設で、陽性とされたのも学会指針が認めていない検査項目だった。すぐに、「これはちゃんとせなあかん」と引き取った。指針外の項目では、検査精度が低い可能性があると考えていた。

「再び陽性になるのでは」怖い

 女性が受けたNIPTの結果は「8番染色体部分重複の疑い」。23対ある染色体のうち8番目の異常だ。

 クリニックが出した検査結果の資料には、8番染色体の重複範囲が記されていた。藤田さんは文献を調べて、他の専門家に相談した。もし重複範囲が少しずれているなら、日本人に一定頻度で見つかり、さまざまな症状や病気の出ないタイプの可能性があることが分かった。確認するには、子宮内の羊水を採取して、胎児の染色体を調べる「羊水検査」をする必要があった。

 再診の日、藤田さんは羊水検査を勧めたが、女性は「賭けに出るようなことに進むのは怖い」と返した。再び陽性になる可能性が高いのではと想像し怖くなった。

 女性は、NIPTで陽性となった箇所について解説するウェブサイトを印刷した紙を手にしていた。手や足などにさまざまな症状が出ると書かれていた。その紙を見た藤田さんは、超音波検査を始めた。

 「指は5本あるよ」

 「心臓はちゃんと(左右の)部屋が分かれている」

 藤田さんは、胎児を観察しながら体の部位ごとにじっくりと説明した。モニター画面には高精度の3D画像で、胎児の姿がくっきりと映し出された。

 「妊娠初期なのにここまで分かるんだ」。1時間以上話を聞き、ようやく女性は気持ちが落ち着いてきた。藤田さんの提案を受け入れ、羊水検査に進むと伝えた。

 そこから羊水検査の結果が出るまで1カ月以上あった。女性は長男、長女の世話と仕事のことだけを考えるように努めた。それでも、子どもたちを寝かしつけた後、羊水検査のことが頭にちらついた。普通に仕事をしているつもりだったのに、会社の上司からは「ずっと暗い顔をしている」と心配された。

 羊水検査の結果は、特段の症状が出ないタイプだった。藤田さんの予想通りだった。診察室で、検査結果の報告書を示される…

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