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社会に衝撃を与えた重大事件・事故の特集ページです。発生当時の状況や事件の背景、社会への影響について、当時の新聞紙面や写真を使って詳しく解説しています。警察の隠語を紹介した用語集も併せてご覧下さい。

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八王子スーパー強盗殺人事件

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 八王子スーパー強盗殺人事件は、1995年7月に東京都八王子市の「スーパーナンペイ大和田店」の事務所で、女性3人が射殺された事件である。八王子スーパーナンペイ事件、八王子ナンペイ事件などとも呼ばれている。一般人が拳銃で襲われるという残忍な手口が、社会に大きな衝撃を与えた。事件の公訴時効(事件発生後、一定期間を過ぎると容疑者を起訴できなくなる制度)まで約3カ月に迫っていた2010年4月に改正刑事訴訟法が施行され、殺人罪などの時効が廃止となったことから、現在も警視庁による捜査が続けられている。

事件概要

3人が射殺された「スーパーナンペイ大和田店」の2階事務所付近を調べる捜査員ら=東京都八王子市大和田町で1995年7月31日未明
3人が射殺された「スーパーナンペイ大和田店」の2階事務所付近を調べる捜査員ら=東京都八王子市大和田町で1995年7月31日未明

事件名

八王子スーパー強盗殺人事件
発生日時

1995年7月30日午後9時15分ごろ

場所

東京都八王子市大和田町4の「スーパーナンペイ大和田店」2階事務所

被害者

パート従業員の稲垣則子さん(当時47歳)、ともにアルバイトで高校2年の矢吹恵さん(同17歳)、前田寛美さん(同16歳)
容疑者

逃走中

動機
金銭目的、怨恨(えんこん)などの見方があるが不明
特徴

女性3人が頭部を拳銃で撃たれる

八王子スーパー強盗殺人事件の発生を伝える毎日新聞1995年7月31日付朝刊1面
八王子スーパー強盗殺人事件の発生を伝える毎日新聞1995年7月31日付朝刊1面

 八王子スーパー強盗殺人事件は、1995年7月30日午後9時15分ごろに発生した。東京都八王子市大和田町4にある「スーパーナンペイ大和田店」2階の事務所で、女性3人が拳銃で頭を撃たれて射殺された。事務所内の金庫に銃弾が撃ち込まれていたことから、警視庁は強盗殺人事件として八王子署に捜査本部を設置した(正式名称は「大和田町スーパー事務所内けん銃使用強盗殺人事件特別捜査本部」)。この事件は、「ナンペイ事件」「スーパーナンペイ事件」などとも呼ばれている。

 事件当日、現場近くの「北の原公園」では、午後6時から午後9時過ぎまで地元の盆踊り大会が開かれていた。しかし、不審者などの目撃証言は少なく、警視庁はこれまでに延べ21万人以上の捜査員を投入したが未解決となっている。現場のスーパーは1998年に取り壊され、跡地は駐車場として利用されている。

被害の状況

追悼式で花に囲まれた(左から)前田寛美さん、稲垣則子さん、矢吹恵さんの遺影=東京都八王子市で2009年7月26日午前11時38分、馬場理沙撮影
追悼式で花に囲まれた(左から)前田寛美さん、稲垣則子さん、矢吹恵さんの遺影=東京都八王子市で2009年7月26日午前11時38分、馬場理沙撮影

 事件発覚は同日午後10時ごろだった。被害者の一人でパート従業員の稲垣則子さん(当時47歳)を迎えに来た知人が、スーパー2階の事務所内で、稲垣さんと、いずれもアルバイトで私立桜美林高校2年の矢吹恵さん(同17歳)、東京都立館(たて)高校(2004年に閉校)2年の前田寛美さん(同16歳)の3人が血を流して倒れているのを見つけた。

 捜査関係者によると、稲垣さんは事務所奥の壁に寄りかかるように倒れていた。矢吹さんと前田さんは粘着テープで口を塞がれ、2人一緒に手を縛られた状態で事務所中央に倒れていた。

 稲垣さんは頭部を2発、矢吹さんと前田さんもそれぞれ頭部を1発ずつ拳銃で撃たれていた。室内に目立った物色の跡はなかったが、売上金など現金約500万円が入った金庫に銃弾が撃ち込まれた形跡があった。

 スーパーの閉店は午後9時。同9時15分ごろに近所の住民が銃声のような音を聞いていることから、捜査本部はこの時間帯に事件が起きたとみている。

 事件当日の夜、稲垣さんと矢吹さんは2人でレジ業務や売上金の集計などをしていた。前田さんはアルバイトの日ではなかったが、矢吹さんを訪ねてきていた。3人は帰宅しようとしたところで事件に巻き込まれたとみられる。

犯人の手がかり

(1)「線条痕」類似の拳銃

 現場から見つかった銃弾は計5発。鑑定の結果から、使われた拳銃は38口径のフィリピン製回転式拳銃「スカイヤーズ・ビンガム」とみられている。スカイヤーズ・ビンガムは1985年ごろから日本に入り始め、暴力団員が所持しているケースが多かったとされる。

 5発のうち3発については、鑑定から注目すべき情報が得られた。銃弾に刻まれた「線条痕」(せんじょうこん。銃から発射された弾につく銃身内の溝の痕で、発射した銃を特定できる場合がある)を詳しく調べたところ、都内の暴力団組員が所持していた拳銃から発射された可能性が一時浮上した。

 この組員は2009年8月に銃刀法違反容疑で逮捕(当時40代)され、拳銃はその際に押収された米コルト社製のコピー品だった。組員は銃の入手経路について「知り合いから2008年6月ごろに仕入れた。誰からもらったかは言えない」と語り、ナンペイ事件への関与も否定した。

 捜査本部は2012年7月、拳銃の製造業者などに当たるため、フィリピンに捜査員を派遣した。しかし、製造時期や流通経路などに関する有力な情報は得られず、結局、男性が事件に関わった可能性も低いと結論づけられた。

(2)足跡から特定したスニーカー

(上)丸井などで1990~91年に販売されていたスニーカー(下)パルコなどで販売されていたスニーカー=いずれも警視庁のホームページより
(上)丸井などで1990~91年に販売されていたスニーカー(下)パルコなどで販売されていたスニーカー=いずれも警視庁のホームページより

 現場には犯人のものとみられる靴の痕があり、捜査本部は該当するスニーカーが2種類あることを突き止めた。いずれもサイズは26センチで、1990年代前半に流通。新品ではなく、ある程度履き込んでいたとみられる。

 2種類のうち一つは、1990~91年に東京近郊のファッションビル「丸井」などで439足(価格7800円)が販売された。カラーは白、青、赤など7色あり、ひもの穴は金属製が4個とプラスチック製が2個。ミッドソール(靴底の一部)に2本の黒いラインがあり、かかと部分にメーカー名が入っている。

 もう一種類は1993~94年に全国の「パルコ」などで94足(価格1万2000円)が販売され、黒と白の2色。金属製のひも穴が7個あり、こちらもかかと部分にメーカー名が書かれている。

2種類のスニーカーが販売されていた東京都内の地域・店舗名=警視庁のホームページより
2種類のスニーカーが販売されていた東京都内の地域・店舗名=警視庁のホームページより

 足跡には溶接作業時などに飛び散る鉄粉が付着しており、犯人が鉄工所などに出入りしていた可能性もある。

データベース記事から

八王子スーパー強殺 犯人着用とみられるスニーカー再現(2018年7月17日付)

(3)粘着テープの指紋

 高校生の矢吹さんと前田さんを縛るなどした際に使われた粘着テープは大量生産品で、流通ルートからの捜査は難航した。テープには被害者以外のものとみられる汗が付着していたが、DNA型は最新の技術でも一部しか検出できず、個人の特定は困難とみられる。

 一方で、捜査本部は事件から約10年後、2人を縛ったテープに残されていた指紋を、特殊な液体などを使って採取することに成功した。この指紋から検出された8個の特徴点をデータベースなどで照合した結果、事件当時、東京の多摩地域に住み、2003年に60代で病死した元タクシー運転手の男性が浮上した。

 ただし、警察が指紋を「同一」と判断するには12個の特徴点が一致する必要があり、決め手にはならなかった。この男性が事件当時、現場にいなかった可能性が高いことも後に判明。交友関係の洗い出しなども進めたが、事件とのつながりは見つからなかった。

(4)不審車両

 事件前後の時間帯に、現場近くで不審な白い国産乗用車が目撃されている。ただし、車種やナンバーは特定されておらず、事件との関係もはっきりしていない。

(5)新たな証言

中国・大連市看守所に入る警視庁の捜査員らを乗せたバス=中国・大連市で2009年9月15日午前9時ごろ、古関俊樹撮影
中国・大連市看守所に入る警視庁の捜査員らを乗せたバス=中国・大連市で2009年9月15日午前9時ごろ、古関俊樹撮影

 事件から14年後の2009年9月、中国で麻薬密輸罪で死刑判決を受けた日本人男性(中国で2010年に死刑執行)が、警視庁の捜査員に対し「カナダ在住の中国籍の男性が八王子事件の実行犯を知っているかもしれない」などと証言した。

 この日本人男性は、かつて日中混成強盗団のリーダーだった人物で、「中国籍の男性と日本で一緒に強盗団にいた時、八王子の事件が話題に上り、詳細を知っていた」などと語ったという。中国当局からの情報提供を受け、警視庁が中国に捜査員を派遣し事情聴取した。

 カナダ在住の男性は中国・福建省出身。事件があった1995年当時は首都圏に住んでいたとされ、2006年にカナダで難民申請して永住権を取得したとみられる。

 捜査本部は2010年、この男性が他人名義の偽造パスポートで出国したとする旅券法違反容疑で逮捕状を取り、カナダ政府に身柄の引き渡しを要請。カナダの裁判所が引き渡しを認める決定を出したことを受け、2013年11月に男性を逮捕し、日本に移送した。

 捜査本部は旅券法違反事件の調べを進める一方、ナンペイ事件についても事情を聴いたが、男性は関与を否定し、実行犯についても「知らない」と語った。

 男性を調べるきっかけとなった元強盗団リーダーの証言は真実だったのか? 捜査関係者の間では「死刑の執行を遅らせるため、『重大事件について知っている』と虚偽の証言をしたのではないか」との見方も出ている。

 カナダから移送されてきた中国籍の男性は旅券法違反で東京地裁立川支部に起訴され、2014年9月に懲役2年、執行猶予5年の有罪判決を受けた。その後、男性は八王子事件への関与を否定したまま再びカナダに戻った。判決を受け、当時の捜査幹部は「ナンペイ事件に直結する情報は得られなかった」とコメントした。

絞り込めない犯人像

警視庁が3Dプリンターを使って事件現場を再現した模型=東京都千代田区の警視庁本部で2015年7月24日、山崎征克撮影
警視庁が3Dプリンターを使って事件現場を再現した模型=東京都千代田区の警視庁本部で2015年7月24日、山崎征克撮影

 事件では3人の一般市民が犠牲になったが、物証や目撃証言は少なく捜査は進展していない。拳銃を使った荒っぽい手口であるため暴力団関係者も捜査対象とされたが、有力な情報は得られていない。

 事件の動機も解明が進んでいない。金庫に向けて拳銃を発射した跡があることから、犯人は金庫の現金を奪おうとしたものの、ダイヤル番号を聞き出せなかったために激高し、3人を射殺したとする「金銭目的説」がある。

 一方、被害者3人はいずれも至近距離から頭部を撃たれていることから、被害者やスーパーなどに対する「怨恨(えんこん)説」もささやかれている。

 また、何らかの事情によりスーパーの防犯体制を知っていた人物が事件に関与したとの見方もある。防犯カメラは1階の店舗内にはあったが、外階段で出入りする2階の事務所には設置されていなかった。店や事務所には不審者を検知する防犯ベルもあったが、最後に店を出る従業員が装置をオンにする仕組みだったため作動しなかった。

 また、事件が起きたのは1週間のうちで金庫に最も多くの売上金がある日曜日だった。従業員が少なくなる閉店直後の時間帯を狙われていることから、犯人が入念に店の状況を調べた計画的犯行だったとの見方もある。

 10年以上にわたりナンペイ事件の捜査に関わった警視庁捜査1課の岩城茂氏は2021年7月(当時は管理官、2022年春に退職)、毎日新聞の取材に対し「動機など不明な点は多いが、銃を入手できる立場の人物による計画的な犯行だろう」と語った。

データベース記事から

定年間近「一生背負う」 スーパー3人射殺26年 手がかり求め歩く(2021年7月30日付)

被害者の同級生らの活動

矢吹恵さんの写真を前に手を合わせる同級生の鷹野めぐみさん=東京都町田市の桜美林高校で2017年7月29日、深津誠撮影
矢吹恵さんの写真を前に手を合わせる同級生の鷹野めぐみさん=東京都町田市の桜美林高校で2017年7月29日、深津誠撮影

 事件で犠牲になった矢吹恵さんが通っていた桜美林高校(東京都町田市)では事件後、親友の鷹野めぐみさんら同級生や教諭の有志が「銃器根絶を考える会」をつくった。文化祭で銃社会の現状を伝えるパネル展示を行い、後輩たちに銃の恐ろしさを伝える活動をしている。

 しかし、仕事や家庭などの事情で会の活動を続けられるメンバーは減り、2020年時点では5人程度と当初の半分になった。一時は継続を危ぶむ声もあったが、「できることを続けよう」と地道に取り組んでいるという。

 桜美林高校では毎年、事件があった時期に合わせて同級生や教員らが集まり、追悼礼拝も開いている。鷹野さんは2021年7月の取材に「『このまま解決しなかったら』という怖い気持ちもあるが、捜査が続いているので諦めてはいけないと思っている」と話した。

 一方、矢吹さんの両親は2009年7月、警視庁を通じて次のような手記を公表した。当時は殺人罪の時効が撤廃される前で、時効まで約1年と迫っていた時期だった。

 「時効制度の撤廃を嘆願しています。いくら時間が経過しようとも、罪を犯した者は、法の裁きを受けるべきであり、逃げ得を許すわけには絶対にいかないのです」

 「最近、ふと、『怖がり屋だった恵も、今年は31歳になって、夫や子供たちに囲まれ、幸せな日々を送っているのかな』と考えてしまうことがあります。私たち家族にとってみれば、たとえ何年経(た)とうとも、平成7(1995)年7月30日のあの日から、時間は止まったままになっているのです」

データベース記事から

「どんな理由で命を奪ったの?」同級生が問い続けた25年(2020年7月25日付)

捜査本部が求める情報

 捜査本部は事件当日に犯人を見た可能性がある人物として、①閉店間際に来店した若いカップル②スーパー2階の事務所の灰皿にあった11本のたばこを吸った女性――を捜している。

 若いカップルは事件当日の最後の客で、午後8時56分に青果やお好み焼き、焼きそばなど7点1754円分の商品を購入した。その後、スーパーの駐車場に向かい、白色のセダン型の車に乗ったとの情報がある。男性は身長約177センチで、髪形は両サイド刈り上げ風でラフな格好。女性はストレートの髪を肩まで伸ばし、黒っぽいワンピース風の服を着ていた。

 また、事務所に残っていたたばこは11本で、いずれも「マイルドセブンライト」だった。吸い殻には口紅が付いており、DNA型を調べたところ性別は女性だった。スーパーの関係者とは一致しなかったという。情報提供は警視庁八王子署捜査本部(042・621・0110)へ。

外部リンク

事件当時の発生現場付近のイメージ3D動画(警視庁ホームページより)

懸賞金

スーパーナンペイ大和田店の周辺を調べる捜査員ら=東京都八王子市大和田町で1995年7月31日未明
スーパーナンペイ大和田店の周辺を調べる捜査員ら=東京都八王子市大和田町で1995年7月31日未明

 容疑者の特定につながる有力な情報には、国の公的懸賞金と民間団体の私的懸賞金を合わせて上限600万円が支払われることになっている。

八王子スーパー強盗殺人事件を巡る経過

1995年7月
事件発生

2006年7月

地元の防犯協会有志が有力情報に懸賞金300万円の提供を決める

 09年8月

別の事件で逮捕された東京都内の暴力団員の自宅から、事件で使われた可能性があるフィリピン製拳銃を押収→ナンペイ事件との関連は不明

   9月

中国で麻薬密輸罪で死刑判決を受けた日本人男性が、警視庁の事情聴取に「カナダ在住の中国籍の男性が実行犯を知っているかもしれない」と証言
 10年4月

日本政府がカナダ側に中国籍の男性の身柄引き渡しを要請
改正刑事訴訟法の施行で時効が撤廃され、捜査継続に

 12年7月
事件で使われた拳銃の捜査のため、警視庁がフィリピンに捜査員を派遣

 13年9月

カナダ・トロントの裁判所が中国籍の男性の身柄引き渡しを認める決定 
  11月
中国籍の男性を旅券法違反容疑で逮捕し、日本に移送
 14年9月
旅券法違反事件で男性に執行猶予付きの有罪判決→ナンペイ事件との関連性は低いと判断
 15年2月

現場に残された粘着テープに付いた指紋が、03年に病死した元タクシー運転手の指紋と酷似していることが判明→ナンペイ事件との関連性は低いと判断

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