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日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。
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ボードゲームで最も権威ある賞の一つ、ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres、Sdj)の2022年受賞作が先日発表され、ノミネートされていた日本人ゲームデザイナー作品「SCOUT(スカウト)」は惜しくも受賞を逃しました。もしも受賞すれば日本人初となる快挙でした。日本人がノミネートされたのは「街コロ」(15年、菅沼正夫氏作)以来。小箱作品は不利と言われながらノミネートを果たしたことこそ大いに評価すべきでしょう。筆者が所有するオリジナル版の「SCOUT!」を元に紹介します。
手札を早く出し切れ
スカウトはトランプの大富豪のように、連番か同数のセットを作って手札を早く出し切ることを目指す「ゴーアウト系」のカードゲーム。場に出すには、すでに場に出されたセットより強いセットが必要です。
セットの強さは、枚数が多い方(1枚から出せます)▽枚数が同じなら数字がより大きい▽連番より同数――というよくあるパターン。例えば、場に「3、4」の連番が出ていたら「4、5」の連番や、「1、1」の同数、「2、3、4」のような3枚組みなどが出せると言うわけですね。
ありがちなカードゲームと思いきや、三つのルールが独特の面白さを演出しているのです。
三つのルールが織りなす独自性
①カードの上下 カードの強さは1~10なのですが、上下で異なる数字が書かれています。重複するカードはないので、カード総数は45枚。
②手札の並べ替え禁止 手札は配られた順番に保持する必要があります。つまり連番や同数のセットを出そうと思えば、手札の中ですでに並んでいなければならないのです。最初に手札が配られた際にだけ、上下をそのまま入れ替えることができます。
③スカウト 手番では手札からカードを出す以外に、場札の両端のどちらかを手札に加えることができます。これが作品名にもなったスカウト。手札のどこに入れてもいいのでスカウトを利用して連番や同数が作れます。
手札から出せるけれど、さらに強いセットを作るためにあえてスカウト。そう思っているうちに別のプレーヤーが手札を出し切ったり。カードは配りきりなので他人の手札もある程度読めます。プレー感は軽いのにやればやるほど深みが出てくる傑作です。
作者からのコメントも
オリジナル版は同人サークル「ワンモアゲーム!」が制作。今回、Sdjの審査対象となったのは、オインクゲームズ(東京都港区)が海外版としてリメークした「SCOUT」です。オリジナル版はノンテーマですが、海外版はサーカス団を組み上げる団長という設定に。海外版の完全日本語版が近く発売されるそうです。
スカウトの作者であり、ドイツでの授賞式にも出席した梶野桂さんからコメントをいただきました。
<ノミネート発表のライブ配信でSCOUTの名前が呼ばれた瞬間、妻と跳び上がって喜びましたね。Sdjを夢見てゲームを作ってきたので、その方針は間違っていなかったと認められた瞬間でもありました。
オインクゲームズさんと一緒にベルリンの授賞式に参加しましたが、前夜祭や当日の会場規模に驚かされました。ドイツで権威のある賞とは理解していましたが、ここまで華やかな授賞式だとは思いませんでした。
Sdjを受賞できなかったことは「悔しい」以外の言葉では表すことができません。人生最大のチャンスでした。この悔しさをバネに、これからも多くの人に繰り返し遊んでもらえるゲームを作っていきたいです>
大賞受賞作は自然保護テーマの「カスカディア」
最後に22年Sdj大賞受賞作について簡単に。北アメリカ大陸の太平洋岸北西部「カスカディア」をタイトルにした、自然保護がテーマのパズルゲームです。プレーヤーはクマ、エルク(ヘラジカ)、サケ、タカ、キツネの5種類の動物を、六角形の生息地タイルに配置して多様な自然環境を作ろうとします。
手番になったら生息地タイルと動物ディスクの4セットのうち一つを選択。自分の初期生息地タイルにつなげるようにタイルを置き、居住可能なタイルに動物ディスクを配置。場の生息地タイルと動物ディスクを補充して次のプレーヤーに。やることはたったこれだけです。タイルの配置制限などもありませんが、同じ地形をつなげると点数が上がります。またそれぞれの動物については、ゲーム開始時にどういう配置にすれば何点がもらえるかという得点カードが公開されています。同じ地形をつなげたいけれど、そうすると動物がうまく置けない。2層構造のパズルになっています。
他人との絡みはタイルとディスクのセットを選択する時と、地形の塊を比較する時のみ。他人に邪魔されずに手元のパズルをじっくり解くタイプの作品です。分かりやすいテーマと質の高いコンポーネントで安定感のあるファミリーゲームに仕上がっています。【野地哲郎】=次回は8月13日掲載
「SCOUT!(スカウト)」データ
2~5人用◆所要時間15~20分◆9歳以上対象◆梶野桂作◆2019年初版
「カスカディア」データ
1~4人用◆所要時間30~45分◆10歳以上対象◆ランディ・フリン作◆2021年初版