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鬼怒川氾濫で国敗訴 河川管理の再点検が急務

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 水害を巡り、行政による河川管理の不備を認めた画期的な司法判断である。各地の河川で、国や自治体に再点検を迫るものだ。

 7年前に豪雨で鬼怒川が氾濫し、茨城県常総市の3分の1が浸水した水害について、川を管理する国に賠償を命じる判決を水戸地裁が出した。

 流域に記録的な大雨が降り、市内で川の水があふれるなどした。災害関連死を含めて15人が死亡し、5000棟以上が全半壊する被害が出た。

 あふれた地点では、川沿いにある砂丘が長らく自然の堤防のような役割を果たしていたが、太陽光発電事業者によって掘削され、以前より低くなっていた。

 判決は、砂丘が削られれば川が氾濫し、水害が起こり得ることを国は予想できたと指摘した。開発を制限できる「河川区域」に指定すべきだったのに、怠ったと批判した。

 大阪府大東市の水害を巡る「大東水害訴訟」で1984年に出された最高裁判決以降、水害訴訟では住民側の敗訴が続いてきた。

 河川の改修には費用も時間もかかり、用地の制約もあるため、特別に不合理な点がなければ、行政の責任は問わないという考え方が示されたからだ。

 今回の判決は、治水機能の維持に目を向けた点が特筆される。安全性を保つことは、行政が河川管理者としての権限を適切に行使すれば可能だと判断した。他の訴訟に影響する可能性もある。

 住民の命や財産を守るのは、国や自治体の責務である。河川の改修が段階的にしか進められない以上、既にある治水機能が損なわれないように努めることは当然だ。

 地球温暖化の影響で、毎年のように各地で記録的な大雨が観測され、災害も激しさを増している。あらゆる措置を講じることが欠かせない。

 堤防やダムなどハード面の対策と、ハザードマップの普及や避難計画の充実などソフト面の対策を組み合わせる必要がある。

 危険性が高い区域で住宅の建築を規制したり、貯水施設を整備したりして水害を防ぐ「流域治水」の取り組みが始まっている。

 住民と協力し、実効性ある対策を進めなければならない。

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