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部活クライシス

学校教育の一環とされてきた部活動。教員の長時間労働や少子化などを背景に、従来の活動が成り立たなくなりつつあります。

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「部活の地域移行」成功の鍵はやはりカネか 不安尽きぬ受け皿側

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選手に声をかける総合型地域スポーツクラブ「アステルアスレチックスクール」の風早一也代表=岡山県倉敷市の倉敷運動公園陸上競技場で2022年5月19日午後8時13分、吉見裕都撮影 拡大
選手に声をかける総合型地域スポーツクラブ「アステルアスレチックスクール」の風早一也代表=岡山県倉敷市の倉敷運動公園陸上競技場で2022年5月19日午後8時13分、吉見裕都撮影

 部活動の実施主体を学校から地域に移す「地域移行」が本格的に動き出した。受け皿の軸として期待されるのが総合型地域スポーツクラブだ。しかし、肝心の現場では、急速な改革に戸惑う声が多い。渦巻く不安の中心にあるものを探った。

 ある日の午後8時過ぎ。照明に照らされた岡山県倉敷市の倉敷運動公園陸上競技場に、トラックを走る中学生の足音が響いていた。「膝だよ、膝」「いいね」。岡山を拠点に陸上競技の指導をする総合型地域スポーツクラブ「アステルアスレチックスクール」の風早一也代表(42)が笑顔で声をかけていた。

 スポーツ庁の有識者会議が6月、地域移行への対応策をまとめた提言を提出した。同庁は提言に沿い、2023年度からの3年間、主に公立中学校の休日の部活を対象に移行するよう、自治体に働きかける。受け皿はスポーツ少年団などの民間を想定する。中でも総合型地域スポーツクラブへの期待は大きい。生涯スポーツ社会の実現を目指したスポーツ振興基本計画の策定(00年)を受け、「地域住民の誰もが参加できる」スポーツクラブとして全国で設置されてきたからだ。だが、必ずしも順風満帆とはいえない現実がある。

指導者確保が心配

 前提として学校現場での指導者不足という問題がある。日本体育協会(現日本スポーツ協会)が14年にまとめた資料によると、中学校の部活の顧問のうち「担当教科が保健体育でなく、担当している部活動の競技経験なし」に該当する割合が約46%もあった。その傾向は近年、強まっているという指摘もある。

 生徒が専門的な指導を受けられないだけでなく、競技経験のない教員が負担の重さにたまりかねて指導を拒否し、部活が成り立たなくなるリスクは大きくなる一方だ。

 アステルでは現在、10以上の中学校から約60人が部活とは別に競技に取り組んでいる。アステルは今後、部活地域移行の受け皿となる可能性が高い。風早さんは「個々の生徒に対して細やかで専門的な指導ができる」と前向きではある。

 さらに、提言は「生徒の多様なニーズに合った活動機会の充実」と地域移行後の社会の理想を掲げる。試合で好成績を狙う生徒もいれば、楽しむことを重視する生徒もいる。多彩な競技、種目をそろえることも必要だ。それには多くの指導者を確保しなければならないが、風早さんは「言うのは簡単だが、それを会費でまかなうとしたら高くなる」と指摘する。

 「かといって、クラブに丸投げされても限界がある。指導者に給料が払えなかったら(教員に負担を強いる)今と変わらない。国の財源で補助金などが見えれば具体性が出てくる」と訴える。

先行事例も示すカネの課題

兵庫県播磨町立播磨南中サッカー部を指導する総合型地域スポーツクラブのNPO法人「スポーツクラブ21はりま」の近藤良慈さん(左から2人目)=同法人提供 拡大
兵庫県播磨町立播磨南中サッカー部を指導する総合型地域スポーツクラブのNPO法人「スポーツクラブ21はりま」の近藤良慈さん(左から2人目)=同法人提供

 「いきいきしてますよ。以前は点を取ったこともなかったので」。総合型地域スポーツクラブである兵庫県播磨町のNPO法人「スポーツクラブ21はりま」の近藤良慈さん(35)は、指導する播磨町立播磨南中サッカー部の様子をそう話す。

 播磨町と「はりま」は、補助金を活用しつつサッカー部などの地域移行に先行して取り組んでいる。近藤さんは3年前から指導。それまではサッカー経験のない顧問だったこともあり結果が伴わなかった。しかし、競技歴12年の近藤さんの教えを受け勝利を味わった部員は前向きになり、自主性が生まれた。地域移行の好結果を示す一例だ。

 ところが、近藤さんですら、地域移行が本格化した際の不安をはっきりと口にする。「事務作業などの負担は増えたが、お金が足りていない。ある程度の予算はつけてほしい」。やはり、カネの話だった。

受益者負担の壁

 費用は受益者、つまり部活に参加する生徒側が負担すべきだという指摘もある。播磨町と「はりま」が実施した保護者アンケートでは負担可能額の平均は月約1500円だったという。部員25人の播磨南中のサッカー部で計算すると計3万7500円。播磨町と「はりま」は他の部活で1時間あたり1200円の報酬で指導者を派遣している。つまり、月8回、1日に4時間弱の計算になる。

 一見、十分に見えるが、そもそも1時間あたり1200円が適正かどうかも難しい問題だ。地域移行が進めば、指導者の需要が高まり、争奪戦になりかねない。「はりま」の佐伯正道理事長は「この金額(1200円)では動いてくれへんのではないか」と声を落とす。そもそも、将来的に予定されている平日の移行も実施された場合、月1500円の負担では明らかに足りない。

 総合型地域スポーツクラブに詳しい広島文化学園大の東川安雄教授はスポーツ庁の計画について「思い切った非常に大胆な改革だ」と見る。その上で「外部の指導者の生計が成り立たないと移行は定着しない。前提としてクラブの収入が増えなくては指導者の手当が出せない」と問題を指摘する。「補助金に頼るばかりではいけないが、独り立ちできるまで、何らかの経済的なバックアップがほしいというのはクラブ側の正直な話」と語る。

 地域移行のカギを握る「受け皿」側。だが、「カネ」の不安は尽きず、受け入れ態勢の構築を進められない現状がある。仮に国が予算対応を渋れば、官民を巻き込んだ部活改革は画餅に帰する可能性すらあるだろう。【吉見裕都】

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