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(ミシマ社・1980円)
自作にまつわる数奇な体験談
「書く」ことをめぐる話は「裏返して『生きる』という話になった」。大阪に生まれ、東京、三崎(神奈川)、松本(長野)、京都と移り住んできた、それぞれの土地での暮らしが語られる。“自叙伝”でもある本書には、自作にまつわる数奇な体験談がひしめく。
例えば初の長編『ぶらんこ乗り』(2000年)に登場する「たいふう」は、幼少期に自ら作った物語だ。30歳を過ぎて心も体もボロボロになった時、療養のために帰った実家で“再会”した。そこには「言葉を使って自分と世の中に橋をかけることを、本気でやっていた4歳半のしんじくん」がいた。その「勇気」に励まされ、再び筆を握って以降「『たいふう』の続きを書いている」と語る。
書くことをしながら「生きることの練習をやっていた」とも言う。「人間が生きるというのは世の中との関わりを持つことだと思うんです」。妻の園子さんをはじめ<他人がいてくれる喜びが、小説を書く喜びにつながった>。定期的にクラシックコンサートに通い、楽しかった時間が音楽劇『麦ふみクーツェ』(02年)に反映されたように、実生活と小説世界は当たり前のように交わる。
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