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致死的な熱波は「ハッピー」? 風刺コメディーの先を行く現実

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消火に駆けつけた消防車。記録的な熱波に見舞われたロンドン近郊では複数の大きな火災が発生した=ロンドン近郊で2022年7月19日、ロイター
消火に駆けつけた消防車。記録的な熱波に見舞われたロンドン近郊では複数の大きな火災が発生した=ロンドン近郊で2022年7月19日、ロイター

 2年前まで暮らしたベルギーは長く暗い冬にうんざりしましたが、今も体が記憶しているのは「記録的な」夏の熱波です。エアコンも扇風機もなく過ごす最高気温40度近い日中は頭が働かず夜は眠れない。心身に大きなストレスを受けました。この夏も欧州は異常な熱波に見舞われています。【外信部・八田浩輔】

 「数千人はなくとも数百人の死者が出ると思います」「この数日間は命に関わる天気になるでしょう」

 英国の気象予報士、ジョン・ハモンドさんは中継先から険しい表情で記録的な熱波への警戒を呼びかけた。遮るようにスタジオのキャスターが言葉をかぶせる。

 「ジョン、私はこの天気でハッピーになりたい。気象予報士たちはちょっと運命論的で破滅の前触れみたい。何がそうさせたのか知らないけど」

 こんなやりとりが7月半ばに英国の右派系ニュース専門放送局で流れ、風刺コメディー映画「ドント・ルック・アップ」にそっくりだとしてツイッターで話題になった。

 同作品は、地球に衝突する軌道の巨大彗星(すいせい)を見つけた研究者たちが人類を守るために奔走する。政治家もメディアも科学の警告を真剣に受け止めず、取り返しのつかない状況に陥るさまを滑稽(こっけい)に描いた。ジェニファー・ローレンスさん演じる天文学専攻の大学院生が、トークショーに出演して地球存亡の危機だと訴えるシーンで、司会者は悲壮な叫びを笑いに変えて言い放つ。「ここでは悪いニュースも明るく取り上げるの」

 巨大彗星=気候変動という現実の脅威をなぞらえたヒット映画は、受賞こそ逃したが2022年の米アカデミー賞で作品賞など複数部門にノミネートされた。

 長く暗い冬が続く欧州北部に暮らす人々は、夏の太陽の恵みを体いっぱいに感じて楽しむものだ。とはいえキャスターが命にかかわる熱波を「ハッピー」と強弁するのは尋常ではない。

 英国の伝統メディアで気候変動問題の取材を続ける記者に、匿名を条件に背景を解説してもらった。…

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