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’22平和考 グローバル経済 危機招く分断に歯止めを

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 ロシアのウクライナ侵攻は国際社会を分断し、冷戦後の発展を支えたグローバル経済を大きく揺さぶっている。

 米ソ首脳による1989年の冷戦終結宣言は世界の緊張を和らげた。各国にもたらされた恩恵は「平和の配当」と呼ばれる。

 まず軍事費が大幅に減った。米国は国内総生産(GDP)比で6%超も費やしていたが、半減させた。フランスやドイツ、イタリアなどは1%台にまで低下させた。

 浮いた資金は新産業育成や国民生活の支援に充てられた。米国は黎明(れいめい)期にあったインターネットの普及を推進した。デジタル時代を築き、経済や暮らしを変革した。

 東西両陣営の垣根が崩れ、国境を超えた経済活動も活発化した。

 日米欧の企業が中国やロシアなどに進出し、国際的な分業体制が構築された。新興・途上国では雇用や所得が増え、各国の消費者は安い製品を買えるようになった。

尽きた冷戦終結の配当

 国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、過去30年のグローバル化について「世界の経済規模が3倍に成長して、13億人が極度の貧困から抜け出す力になった」と評価する。

 だが、ウクライナ侵攻で状況は一変した。日米欧とロシアの対立によってエネルギーや食料などの禁輸が相次ぎ、国際的な供給網が寸断されている。

 米政治学者のイアン・ブレマー氏は「平和の配当は尽き、国際秩序の先行きに不透明感が高まっている」と指摘する。

 懸念されるのは、分断が世界経済や国際社会の危機を深め、取り返しのつかないような事態を招くことだ。

 各国は軍事費を再び拡大している。米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟国はGDP比2%以上への引き上げを急いでいる。日本も現在の1%から大きく増やす方針だ。

 新型コロナウイルス禍に伴う経済対策で各国の財政は逼迫(ひっぱく)した。軍事費を捻出するため、ほかの予算を切り詰めたり、増税したりすれば、国民生活は圧迫される。

 エネルギーや食料価格の高騰も暮らしを直撃している。米国はマイナス成長に陥り、日欧や中国の経済も停滞が続く。インフレと景気後退が重なる「スタグフレーション」となり、世界同時不況に突入する恐れが出ている。

 低所得者ほど物価高の負担は重く、コロナ禍で拡大した格差がさらに広がる。国連によると、16億人が飢餓や貧困に直面している。破産したスリランカなど、多額の借金に苦しむ途上国は多い。

 社会に動揺が広がると、政治も不安定になる。国内の不満をかわすため、対外的な強硬姿勢が幅を利かせるようになれば、緊張が高まるという負の連鎖に陥る。

 冷戦後は中国の安い製品が売れたため、米国で失業が相次ぎ、米中が対立した。グローバル化の負の側面が解消されないまま、敵対する陣営に分かれるブロック化が進むと事態は悪化するばかりだ。

 高橋伸彰・立命館大名誉教授は「各国の相互依存が深まった分だけ、貧困国や先進国の低所得層はブロック化の打撃を受けやすくなっている。国際社会が分断されていては世界経済の健全な発展はおぼつかない」と警鐘を鳴らす。

協調こそが大戦の教訓

 立て直しには多国間の協調が欠かせない。だが主要20カ国・地域(G20)の枠組みは機能不全の状態だ。財務相らの会議は2回連続で共同声明を採択できなかった。

 第二次世界大戦の反省に立ち返る必要がある。

 30年代の世界恐慌で各国は自国産業を守るため高関税を課す保護主義に走った。ブロック化が対立を深め、大戦の引き金となった。

 終戦前の44年、米英など連合国44カ国の代表が米国に集まり、「ブレトンウッズ体制」と呼ばれる国際的な枠組みの創設で合意した。経済的つながりを強める自由貿易の推進と、それを支える為替の安定を目指すものだ。

 会議に出席したモーゲンソー米財務長官は「国益を守る上で最も賢明な方法は国際協調である。大戦の大きな教訓だ」と強調した。

 協調こそ戦後の秩序の出発点であり、経済発展の基盤となった。

 各国の経済は深く結びついている。冷戦時のように断ち切るのは非現実的だ。国際社会はグローバル化の副作用に目配りしつつ、危機を深刻化させる分断に歯止めをかけなければならない。

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