連載

戦うって何?

ロシアのウクライナ侵攻は、平和にどっぷりつかる私たちに戦争の現実を突きつけた。戦争について一歩踏み込んで考える。

連載一覧

戦うって何?

ロシア黙認は中小国侵略の許容 「地獄の世界秩序」が始まる

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
東野篤子筑波大教授=提供写真
東野篤子筑波大教授=提供写真

 戦争を止めるにはどうしたらよい? ロシアのウクライナ侵攻後、日本では、歴史学の重鎮らが両国に即時停戦を求める声明を発表するなど、平和を求める声がメディアをにぎわせてきました。が、それらの議論になぜか少し違和感を覚える部分もあります。違和感の正体を、ウクライナ研究会副会長などを務める国際政治学者、東野篤子筑波大教授に確かめてみました。【聞き手・鈴木英生】

 「憂慮する日本の歴史家の会」(代表・和田春樹東京大名誉教授)は、3月と5月に即時停戦を訴える声明を出して、批判されました。他に、反戦的な動きへの反発として、在日ウクライナ大使館へ千羽鶴を送ろうとした施設や個人が「むしろ迷惑だ」と非難された例もあります。

世代間ではなく専門の違いで論争に

 ――ロシアとウクライナ両国に即時停戦を訴える声明を出したベテラン研究者と、批判する中堅若手の研究者の間で世代間の論争が起きましたね。

 ◆私は、世代間論争とは全く捉えていません。年齢や世代は関係なく、視点の違いをめぐる論争でしょう。ロシア・ユーラシア地域研究と国際政治学との視点の違いもありますし、ロシア、ウクライナ、米欧諸国のどの視点から分析するかによっても左右されます。

 私を含む多くの国際政治学者は、ロシアによるウクライナ侵攻をロシア独特の「勢力圏」的発想が前面に打ち出された結果で、ウクライナの欧米志向や民主化、各種改革の進展をプーチン大統領が許容できなくなったから起きたとみます。他方、一部のロシア研究者は、ウクライナ国内のネオナチや極右の存在など、ウクライナの国内問題を強調します。また、ドンバス2州がロシアに「解放」されたがっているというロシアの主張に同調します。しかし、この2州でロシア軍は「花束で迎えられた」どころか、何カ月も死闘が続いています。ことほどさように、どの視点をとるかで事象の見え方が違うのです。

 ――つまり、ロシア研究者はロシアの代弁者なのだと。

 ◆地域研究者は、その国の事情や認識を説明するのも仕事のうちです。逆に私は「西側視点だ」とか「米国の代弁者だ」などとされ、「まともではない」と非難されます。自戒も込めて強調しておきますが、レッテル貼りは相互理解を妨げるだけです。あくまで具体例に基づき、建設的に批判し合うべきでしょう。

勝っている戦争をやめる国はない

 ――そもそも、即時停戦論をどう思われますか?

 ◆現実から乖離(かいり)しています。今のロシアはウクライナを軍事力で圧倒していると思っています。まだまだ勝ち進められると思っている段階で戦争をやめる国はありません。不思議なことに、ロシアに停戦を呼びかければ、戦闘がきっちりやんで平和が来ると信じる人は結構います。これまでロシアに攻撃されてきた国々の現実を見ると、むしろ停戦・休戦後に悲惨な事態に直面しています。

 ウクライナでも3月の停戦交渉の最中にブチャをはじめとした虐殺が各所で起きました。また、マリウポリなどで注目された人道回廊は、たとえ限定的・短期間であっても停戦とセットでなければ機能しませんが、マリウポリから民間人の脱出が可能となったのは、同都市がロシア軍によって破壊し尽くされた後でした。そうである以上、ウクライナは「できるかぎり侵攻を押し返した後でなければ停戦交渉はできない」と考えるのが論理的でしょう。ウクライナのレズニコフ国防相は、激しい戦闘が続いている状況での停戦交渉は「こめかみに銃口をあてられた状態で協議が行われる」ようなものだとしています。

 ロシアに(領土などの)「お土産」を渡さないと戦争は終わらないとする論者もいますね。なぜ、「お土産」でロシアが満足すると言い切れるのでしょう。…

この記事は有料記事です。

残り2454文字(全文3974文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る
この記事の筆者
すべて見る

ニュース特集