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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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カズオ・イシグロ氏は2017年…

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 カズオ・イシグロ氏は2017年、ノーベル文学賞に決まった際、自分より先に受賞すべき者としてサルマン・ラシュディ氏の名を挙げた。そのラシュディ氏が米ニューヨーク州で刺された▲インドのイスラム家庭に生まれ、13歳で英国に移住した。1981年、「真夜中の子供たち」でブッカー賞を受け、93年には歴代ブッカー賞中の最高賞にも輝いている▲インドではイスラム教徒、英国ではインド系と、常に「部外者」を意識した。その立場で書いた「悪魔の詩」が88年、イスラムを侮辱したと批判される。イラン最高指導者から「死刑」を宣告されながら、本人は英国の移民からの抗議が「一番悲しかった」と述べた。理解してほしい者に本が焼かれたからだ▲欧米の作家でも意見が分かれ、抗議活動がイスラムと西洋の文明間対立ではないことを示した。スーザン・ソンタグ氏らがラシュディ氏を擁護する一方、ロアルド・ダール、ジョン・ル・カレ両氏は「宗教を侮辱すべきでない」などと批判した▲イスラム社会でも冷静な対応がみられ、ブリュッセルで活動したサウジアラビア系やチュニジア系のイスラム法学者は「死刑宣告」に批判的だった。惜しくも2人は殺害される▲試されているのは、社会として過激主義に、どう立ち向かうかだ。警備のすきを突き、凶行が起きたのは残念だが、家族によると、人工呼吸器を外したラシュディ氏は早速、「ふてぶてしいユーモアのセンスを発揮した」という。まずは回復を祈りたい。

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