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’22平和考 アジア安定と日本 「米中」に埋没せぬ戦略を

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 台湾を巡る米中のせめぎ合いが激化している。ペロシ米下院議長の訪台に、中国は大規模な軍事演習で対抗し、地域の不安定要因となっている。

 アジアは世界の成長をけん引してきた。米中日と貿易・投資を通じて結びつくことで新興・途上国も発展を遂げてきた。ところが、米中の覇権争いによって繁栄の土台が揺らいでいる。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は対立に巻き込まれることを恐れている。米中が取り込みを図っているが、どの国も二者択一を望んでいない。

 台湾海峡の緊張について、ASEAN外相は共同声明で「大国間の深刻な対立や予測不能な結果を招く」と懸念を表明しつつ、米中を名指しすることは避けて最大限の自制を求めた。

二者択一望まぬ近隣国

 ASEANにとって中国は最大の貿易パートナーだ。世論調査では「政治・戦略上の影響力が大きい国」として中国を挙げる回答が54・4%に上る一方、米国は29・7%、日本は1・4%だった。

 ただ、中国への警戒心も強い。南シナ海での威圧的な行動や強引な経済進出を続けているためだ。中国の影響力が高まりすぎないよう、米国や日本の関与強化を多くの国が求めている。

 アジアにおける米中のパワーバランスの変化にいかに対応するかは、日米同盟を基軸とする日本にとっても難しい問題である。

 アジアの政治に詳しい神奈川大の大庭三枝教授は「米国の力が盤石ではなくなる中、国力が低下する日本には全方位の外交が求められる。アジアの一員として独自性を発揮することが欧米との関係強化にもつながる」と指摘する。

 大国の思惑に振り回されないようにするには、ASEAN諸国との多角的な連携が重要になる。

 相手の実情に配慮し、共に秩序を支えていく姿勢を示すことが求められる。

 戦後のアジア外交の原点を見つめ直す時ではないか。

 1977年8月17日、当時の福田赳夫首相は訪問先のマニラで東南アジア外交原則「福田ドクトリン」を発表した。

 「軍事大国とならない」と宣言し、対等な協力関係を築くことを約束した。冷戦下で共産主義陣営にあったベトナムなどの国々と共存を図る姿勢も打ち出した。

 戦争の記憶が残る中、成長著しい日本が経済進出することに反発もあったが、アジアの自主性や多様性を尊重する姿勢が高く評価された。

 それから45年が経過し、日本に当時のような経済的勢いはないが、ASEANとの信頼関係は揺らいでいない。

 米国は「民主主義対権威主義」という二項対立の構図を掲げ、中国はASEAN内の足並みの乱れを利用して権益を最大化しようとしている。大国が分断の火種を持ち込もうとする時だからこそ、日本は対等なパートナーとして結びつきを強めるべきだ。

経済連携強化をテコに

 米中対立という難題に直面する状況は日本もASEANも同じだ。貿易・投資にとどまらず、重要物資の供給網の強化やデジタル技術の基準づくり、脱炭素の推進など協力できる分野は多い。中国の強引な海洋進出に対応するための連携も重要だ。

 「国際法や秩序がなければ、大魚が小魚を食い、小魚がエビを食べるように、我々は消えてなくなる」。シンガポール建国の父、リー・クアンユー氏の言葉だ。

 弱肉強食の世界を避けることが日本とASEANの共通利益だ。

 ルールに基づく国際秩序の維持は、貿易立国路線を歩んできた日本の生命線でもある。

 日本やASEANなどによって地域の経済連携が深まれば、内向きに傾く米中も無視できない。実際に中国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に加入申請し、米国もインド太平洋経済枠組み(IPEF)を立ち上げた。

 日本はこうした枠組みを共有している。それをテコにして大国に建設的な行動を促さなければならない。

 地域の安定のためには日中が是々非々で対話することが欠かせない。今年は国交正常化50年の節目でもある。違いを認め、共通利益を追求することが両国関係の基礎のはずだ。

 大国の争いに埋没しないための戦略を描かねばならない。

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