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戦うって何?

ロシアのウクライナ侵攻は、平和にどっぷりつかる私たちに戦争の現実を突きつけた。戦争について一歩踏み込んで考える。

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戦うって何?

非日常のドラマ=戦争とどう向き合うか 池澤夏樹さん寄稿

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作家の池澤夏樹さん=東京都千代田区で2022年3月16日、幾島健太郎撮影
作家の池澤夏樹さん=東京都千代田区で2022年3月16日、幾島健太郎撮影

 第二次世界大戦の終戦から77年の夏を迎えた。日本文学は戦後、戦争とどう向き合い、作家たちは戦争をどう描いてきたのか。芥川賞作家の池澤夏樹さんが、沖縄やトルコ、イラクでの体験を織り交ぜながらつづってくれた。

   ◇   ◇

想像できない「勝って進撃」の快感

 戦争は小さな虫のようにずっとぼくの思考の中にすみ着いている。普段はおとなしいが時に目を覚ましてリンリンと鳴く。

 生まれたのは終戦の1カ月ほど前。場所は北海道の帯広だった。この町に大がかりな空襲はなかったが、ぼくの誕生の1週間後、家から1700メートルのところに爆弾が落ちてきて6人が亡くなった。その中の1人は生後8日目の赤ん坊だったと聞いた。最近になってこの事実を知って、その子はぼくでもあり得たと考えた。

 朝鮮戦争の時は東京にいて、米軍の戦車を積んだトレーラーが第二京浜国道を行くのを見た。子供心にあんなに大きなものかと思ったのを覚えている。戦争というものの規模の実感だった。

 49歳からの10年間、沖縄で暮らした。太平洋戦争末期には地上戦の舞台だったところだ。不発弾の処理作業があるので2時間ほど家から避難してください、という行政からの指示など今でも日常茶飯事である。そして好ましくない隣人として今も米軍がいて広大な基地がある。米兵は住民に交じっているし、軍用機の爆音は耳を壊さんばかり。犯罪も汚染も多い。

 根が臆病者だから勝って進撃という快感は想像できず、攻められる怖さの方ばかり考える。旅でトルコの東部に行った時、延々と続く平野を見て戦車や騎馬兵団が襲来する恐怖を思った。島国の人間にとって地続きとは怖いものだ。国境はただの線でしかない。

一人反戦キャンペーン

 自分は戦争に対して何をしてきたか、改めて考えてみる。文筆以外の方法では大したことはしてこなかったが、一度だけ一人で反戦キャンペーンを張ったことがある…

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