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普段の政治取材では、政策決定や権力闘争の背景、力学に焦点を当てがちですが、政治家の「言葉」にも注目したいと思います。安倍晋三元首相の追悼演説の人選がニュースになり、多くの国会関係者が思い出した演説があります。【政治部・高本耕太】
2008年1月23日の参院本会議。自民党参院議員会長(当時)の尾辻秀久さん(81)は、登壇する直前まで議場の自席で原稿に手を入れていた。
前月に胸腺がんのため58歳で亡くなった旧民主党の山本孝史議員への追悼演説の担当に指名されたのは「ほんの数日前だった」という。
<先生は、末期のがん患者として、常に死を意識しながら国会議員の仕事に全身全霊を傾け、2年の月日を懸命に生きられたのであります>
2人は共に厚生労働行政の専門家。国会論戦で対峙(たいじ)する一方、がん対策や自殺対策では与野党の垣根を越え立法化に向け協力する同志でもあった。尾辻さんは物心つく前に父を戦争で亡くし、山本議員は3歳上の兄の交通事故死が政治を志す原点だった。尾辻さんは「山本さんとは言わず語らずで感じ合うものがあった」と振り返る。
尾辻さんは演説の役目を断りたかったが、「山本議員が『尾辻に読んでほしい』と言い残していた」と周囲に説得され、腹をくくった。演説原稿は「山本さんとは、あんなこともあった、こんなこともあったと記憶を手繰って」書き直しを重ねた。
<先生は、我が自由民主党にとって最も手ごわい政策論争の相手でありました>
尾辻さんが厚生労働相を務めた1年余りの間に、山本議員から委員会で計170問の質問を受けた。尾辻さんが官僚の用意した答弁を朗読すると山本議員は激しく反発し、尾辻さんが答弁席で自らの思いを語ると大きく相づちを打った。
<先生から、自分の言葉で自分の考えを誠実に説明する大切さを教えていただきました>
演説の後半、…
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