「母になって後悔してる」 タブーにあらがう女性たちの赤裸々な告白

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書店で「新刊話題書」のコーナーに並ぶ『母親になって後悔してる』(新潮社)=大阪市北区で2022年7月20日、清水有香撮影
書店で「新刊話題書」のコーナーに並ぶ『母親になって後悔してる』(新潮社)=大阪市北区で2022年7月20日、清水有香撮影

 「母親になって後悔してる」。そんなタイトルの本を書店で見つけ、心がざわついた。

 私には3歳の娘がいる。子どもはかわいいが、育児の悩みは尽きない。一人になるとほっとする自分もいる。でも「後悔」なんてママが口にしていいの? 戸惑いながらページをめくると、そこには社会が描く「良き母」像にあらがい、「血の通った生身の人間」として声を上げる女性たちがいた。

 「私にとって、母であることは正しい選択ではないと思います。(略)自分に合わないからです。私らしくないのです」

 「子どもを持つのは間違いだった、私にとって大きな重荷だった、と口に出すのは(最初は)難しいことでした。(略)そんなことを言ったら、頭がおかしいと思われると考えていました」

 「私の自由は永遠に失われたという感覚です。(略)頭の中に自由がないのです」

 ページの中、母親たちは赤裸々に告白する。

 著者のオルナ・ドーナトさん(45)は、イスラエルの女性社会学者だ。母になったことの後悔が<根強いタブーである>現状に疑問を抱いたドーナトさんは、「過去に戻れるとしたら、再び母になりますか?」という質問に「いいえ」と答えるなどした20~70代の女性23人にインタビューを実施。貧困や夫婦関係とは別の、「母であること自体の困難」にまつわる多様な語りを引き出した。2016年、ドイツで刊行されると大きな反響を呼び、15カ国・地域で出版が決定。日本でも22年3月、鹿田昌美さんの翻訳で新潮社から刊行された。

 本書は5刷を重ねるなど国内でも話題に。

 「ずっと心の中に隠しておいた感情が見事に言語化されていました。『子育ては楽しい』といったことを言うたびに自己欺まん以外の何も感じない自分を隠してきました。自分の感情を認められたことが良かった」。30代女性からこんな感想が新潮社に届いた。

 少子化や人口減少問題に関心を持つ60代男性から「想定を超える論点が衝撃的で、課題の深さに気付くきっかけになりました」というコメントも寄せられた。

 担当編集者の内山淳介さんは「女性は母親になるべきであり、子育てに喜びを感じるようにできているという社会通念はあまりに深く浸透している。しかしこうした社会通念によって苦しんでいる女性がいるのも事実」とし、「その感情が可視化され、社会通念を更新していくための議論のスタートになるのではと思いました。男性読者も一定数いて、心強く感じました」と刊行の意義を説明する。

「母性」をより人間らしく

 <はあ、わかる><ああああ、どうしたらいいのやこの気持ち>。母親や家族に関する本を多数発表するエッセイストで、翻訳家の村井理子さん(52)は3月、ツイッターでいち早く反応した。

 双子の男子高校生の母でもある村井さんは、神聖視されがちな「母性」を「より人間らしいものにしていく」という本書の言葉に最も共感したという。「女性は出産したからといって自動的に母になるわけでもないし、結婚したから母にならなければならないわけでもない。そもそも私たち女性は選択できるんだということを改めてクリアにしてくれました」

 そして「後悔することが良いか悪いかではなく、後悔の気持ちを持つことさえも許さない社会の圧力とは何なのかを問う本」と位置づける。実際、ドイツで初めてこの本が刊行された際、ドーナトさんや後悔の声を上げた女性たちへの非難が殺到したという。それは「わがまま」な母の「泣き言」に過ぎず、「後悔は母の個人的な失敗によるものだ」と。

 しかし本書が批判するのは、母を固定的な「役割」とみなす社会の認識だ。そうである限り、母たちは自らの感情や意思といった主体性を奪われ、役割に応じた「母らしさ」に縛られる。

 <唯一のシナリオは「完璧な母」であり、そこを目指すしかない――それは実際には「理想的な従業員」と言える>とドーナトさんは論じる。村井さんは「もし女性が母という労働者の役を降りれば、家庭は機能しなくなり、社会基盤が揺らぐかもしれない。だからこそ社会は母の後悔を許さないのだというこの本の指摘がすごく心に残りました」と振り返る。

 さらに「娘の立場で読むと、まったく印象が変わる」とも話す。自身のエッセーでは亡き実母との確執をつづっているが、「娘という存在だった私は、逃げ出したいという母の思いを敏感に感じ取り、無意識に自分の近くに引き寄せて離さなかった。そうして母の役割から離脱することを許さなかった気がします。人間としての苦しみや怒り、葛藤。そんな母の言葉を奪った娘としてこの本を読めば、母が長年封印していたかもしれない思いが理解できます」

愛情と後悔は両立する

 「後悔を語るなんて、子どもがかわいそう」「愛情があるなら後悔なんてしないはず」と思う人もいるかもしれない。

 本書はそうした反応に言及した上で、…

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