特集

ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

特集一覧

ウクライナ侵攻半年 「私」たちの戦争

「見つかったら殺される」脅された家族 ロシア占拠の原発一帯は今

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
ロシア国旗を胸につけた兵士が警備にあたっている=ウクライナ南部のザポロジエ原発付近で2022年8月4日、ロイター
ロシア国旗を胸につけた兵士が警備にあたっている=ウクライナ南部のザポロジエ原発付近で2022年8月4日、ロイター

 朝になっても降りやまぬ雨が、天井のシートを重たくぬらす。人いきれと雑音にまみれた仮設テントの中に、ひときわ疲れ果てた様子の家族がいた。

 8月中旬、ウクライナ南部の都市ザポロジエの避難民支援所。ドミトリー・ミロンチェクさん(38)は、妻と3人の子と一緒に前日の深夜に同市にたどり着いたばかりだ。砲弾の飛び交う前線を越え、南方のロシア占領地域から逃れてきた。

 連載「ウクライナ侵攻半年 『私』たちの戦争」は全8回です。
 このほかのラインアップは次の通りです。
第2回 のしかかる戦争の負担
第3回 東部の人は冬を越せるのか
第4回 なぜ女性は戦場に立つのか
第5回 ロシアとの亀裂が走り
第6回 若者が憧れる「英雄部隊」
第7回 戦争犠牲にどう向き合う
第8回 戦時下の出産と未来への夢

 一家が暮らしていたブロホベシェンカ村の周辺一帯は、2月の侵攻開始から約1週間で露軍に制圧され、今もその支配下にある。

 村のわずか18キロ西にあるザポロジエ原発に対する砲撃が相次ぐ。ウクライナ側は原発を占拠したロシアが自ら攻撃を仕掛け、原子力災害の恐怖をあおっていると非難するが、ロシア側はウクライナの攻撃だと主張。欧州最大級の原発を巡る危機に国際社会が固唾(かたず)をのむ。現地の状況を尋ねると、妻アナスタシアさん(29)は「原発で作業員が拘束されたり、ロシアが爆弾を仕掛けたりしているといううわさを聞いたが、実際に何が起きているのかは分からない。ただ、恐ろしいだけです」と言った。

苦情を伝えた後にロシア兵に追われ

 住み慣れた地を離れたのは、ドミトリーさんにロシア兵の「魔の手」が迫ったためだ。占領後、ロシア兵らは毎晩のように酒に酔って威嚇射撃し、逆らう住民に暴行を繰り返した。近所の飲食店は、そんな兵士らのたまり場となっていた。

 ある日、深夜まで続く騒音に耐えかね、店主の女性に苦情を伝えた。それが悪夢の始まりだった――。

 夜中に自宅の前で車のドアが開く音を聞いた。「ロシア兵が捕まえに来た」と察し、近くに住む兄弟の家に逃げ込…

この記事は有料記事です。

残り1252文字(全文2102文字)

【ウクライナ侵攻】

時系列で見る

関連記事

あわせて読みたい

マイページでフォローする

ニュース特集