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フェスタサマーミューザKAWASAKI 2022①ノット&東響 大植&神奈川フィル

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オープニングを飾ったノットと東響 (C) N. IKEGAMI
オープニングを飾ったノットと東響 (C) N. IKEGAMI

 首都圏の夏の音楽シーンを彩る「フェスタサマーミューザ」(主催・川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール)が7月23日から8月11日までの間、同ホールをメイン会場に開催された。首都圏の主要オーケストラの演奏会など19公演が行われ、1万9572人が来場し盛況のうちに幕を閉じた。今年の同フェスタから取材した3公演を2回に分けて報告する。初回はジョナサン・ノット指揮、東京交響楽団によるオープニングコンサート(7月23日)と大植英次指揮、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(同28日)の演奏会。

(宮嶋 極)

【ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団オープニングコンサート】

 ノットが掲げた今年のオープニングコンサートのテーマは「ジャズとダンス――虹色の20世紀」というもの。さまざまな楽器の組み合わせによる20世紀に創作された7つの作品が次々と演奏されていく構成。一番長い曲でシェーンフィールドの4つのパラブルというピアノ協奏曲(独奏・中野翔太)のような作品が約30分、あとは4~15分程度の小品ばかり。作曲された時点ではやっていたクラシック・ジャンル以外のジャズやタンゴの要素を盛り込んだ曲、ラヴェルのラ・ヴァルスのように20世紀の時点から19世紀のウィンナ・ワルツを振り返るような作品まで実に多彩。変化に富んだにぎやかなプログラムであり、開幕の祝祭感にも富んでおり、ノットのセンスが光る。何より彼自身が楽しみながら指揮している様子で、東響のメンバーも曲ごとの変化に柔軟に対応して、指揮者が示そうとした音色とリズムの多様性を鮮やかに表現していた。

 もうひとつ感心したことがある。変化に富んだ演目だけに編成や楽器の組み合わせも1曲ごとに変わるのだが、セット替えの時間をほとんど取らずにテンポよくプログラムを進めたことである。通常の管楽器パートをすべてステージの上手寄りに配置し下手寄りのスペースにギターやドラムスなどを並ばせてプレイヤーが入れ替わる時間を短縮することを可能にした。クラリネットの協奏曲のようなドビュッシーの作品でも同団の吉野亜希菜首席が自席で立奏するなど随所に工夫が凝らされていた。インターバルが短い分集中が途切れることがなく、曲ごとの変化がより分かりやすく伝わることにもつながった。ノットのアイディアなのか、楽団スタッフの工夫なのか、いずれにしてもこうした点もコンサートが盛り上がる一助となっていた。終演後、オケが退場しても喝采はやまずノットがステージに呼び戻されていた。

シェーンフィールドの4つのパラブルでソリストを務めた中野翔太(左) (C)N. IKEGAMI
シェーンフィールドの4つのパラブルでソリストを務めた中野翔太(左) (C)N. IKEGAMI

【大植英次指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団】

 大植英次の師であるバーンスタインの作品を軸に組み立てられたプログラム。1曲目の組曲「キャンディード」はバーンスタインのアシスタントであったチャーリー・ハーモンがミュージカル全曲から9曲のナンバーを選び組曲化、1999年に大植指揮ミネソタ管によって初演された。大植にとってはまさに手の内にある作品といえるだけに力みのない指揮ぶりが目を引いた。演奏途中で指揮台を降りて、ヴィオラの横に立って全体を俯瞰(ふかん)するしぐさを見せるなど余裕たっぷり。これがオケの自主性を引き出すことにも結びついていた。

 神奈川フィルを聴くのは久しぶりであった。弦楽器の編成は12型と小さめだったが、明るく朗らかに鳴っていた。この日演奏されたすべての曲で大植の設定したテンポはやや遅め。ノリの良い曲でも勢いで押すことをせずに情感を込めた音楽作りが印象に残った。

 1点気になったことがある。打楽器セクションのセッティングである。この日はティンパニが最後列センターのやや上手寄り、ドラムスなどが同じく最後列のやや下手側、シロフォンやヴィブラフォンなどの鍵盤打楽器類が上手壁沿い、バスドラムなどの普段オケで使う打楽器類が下手にセットされていた。ピアノやチェレスタなどの鍵盤楽器が下手袖近くに配置されたため、鍵盤打楽器とのタイミングのズレが何度か生じていた。筆者の席は2階最前列中央だったので、これは席による聴え方によるものでない。下手に鍵盤打楽器群を配置していたら、こうしたズレは生じなかったのではないかと思った。「火の鳥」の最後の1打もティンパニとバスドラムのタイミングにかなりの差異があった。こちらも両者に少し距離と角度があった。前述の東響のオープニングコンサートでも触れたが、オケのセッティングも演奏に対する聴衆の印象に影響を与える重要な要素であると感じた。

大植ゆかりのバーンスタイン・プログラムを神奈川フィルが紡いだ (C) N. IKEGAMI
大植ゆかりのバーンスタイン・プログラムを神奈川フィルが紡いだ (C) N. IKEGAMI

公演データ

【フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2022】

〇東京交響楽団オープニングコンサート 7月23日(土)

指揮:ジョナサン・ノット

ギター:鈴木 大介

ピアノ:中野 翔太

クラリネット:吉野 亜希菜 谷口 英治

コンサートマスター:グレブ・ニキティン

三澤 慶:「音楽のまちのファンファーレ」

クルターク:シュテファンの墓

シェーンフィールド:4つのパラブル

ドビュッシー:第1狂騒曲

ストラヴィンスキー:タンゴ

ストラヴィンスキー:エボニー協奏曲

ストラヴィンスキー:花火

ラヴェル:ラ・ヴァルス

〇神奈川フィルハーモニー管弦楽団 7月28日(木)

指揮:大植 英次

コンサートマスター:石田 泰尚

バーンスタイン(C・ハーモン編):組曲「キャンディード」

バーンスタイン:ディヴェルティメント

バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」から〝シンフォニック・ダンス〟

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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