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タリバン復権から1年 人道危機の放置許されぬ

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 アフガニスタンの人道危機が深刻さを増している。

 米軍撤退を受け、イスラム原理主義組織タリバンが再び実権を掌握してから1年が過ぎた。国際支援が滞り、状況は悪化するばかりである。

 タリバンは、旧政権関係者への恩赦、女性の人権尊重、国際テロ組織との関係断絶などを約束していた。国際社会での負のイメージを拭おうとの狙いがあった。

 だが実際には、約束を守らずに強権支配を続けている。象徴的なのは女性の人権問題だ。

 女子の中等教育を今年3月に再開すると予告していたが、突然取りやめた。宗教警察にあたる勧善懲悪省が復活し、女性に対して公共の場では全身を覆う衣服の着用を義務づけるようになった。

 タリバンはイスラム法の範囲内で対応に努めていると主張するが、国連の専門家は「女性と少女が社会から事実上消し去られた」と批判している。

 米国は今月、カブールに潜伏していた国際テロ組織アルカイダの指導者をドローンによる攻撃で殺害したと発表した。タリバンはかくまっていたことを否定するが、関係を絶つという米国との合意を守っていなかった疑いが強まっている。

 国際社会がタリバンを正当な政権として承認していないのは、こうした問題が全く解決されていないからだ。

 ただ、そのことを理由に人道危機が放置されてはならない。

 世界食糧計画(WFP)によると、国民の半数近い約1900万人が飢餓に陥る恐れがある。350万人以上の子どもたちが栄養失調状態だとも報告されている。

 米軍が撤退して以降、アフガンに対する国際社会の関心は薄れる一方だ。WFPや民間団体は支援を続けているが、人道危機を脱するには不十分だ。

 アフガンが国家として体をなさなくなれば、再びテロの温床になりかねない。周辺国に政情不安が広がることも懸念される。そうした事態を防がなければならない。

 自国の事情を優先し、軍の撤退を急いだ米国の責任は大きい。日本を含む先進国は米国に働きかけ、困窮する国民に支援を直接届ける方策を探るべきだ。

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