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その少女は橋の欄干をつかみ、裸足で立っていた。約10メートル下には淀川水系の1級河川が流れ、腕をがくがくと震わせていた。「死んだらおしまいよ」。偶然通りかかった86歳の女性が手を差し伸べ、少女の命はつながった。勇気を振り絞って説得したのは、人生に悲観した自らの過去を少女の姿に重ねたからだ。
肌寒さが残っていた3月25日の夕暮れ、目を疑う光景が飛び込んできた。大阪府豊中市と兵庫県尼崎市をつなぐ歩道橋。眼下には猪名川が流れている。近くに住む小畑綾子さん(86)は、親族の市原鈴枝さん(87)と日課の散歩中だった。
歩道橋の真ん中に差しかかった時、欄干を乗り越えて川に背を向けるように立つ少女が目に入った。視線を下げると、路面にサンダルとスマートフォンが整然と並べられていた。
細身の少女は10代後半で、黒色のジャージーにグレーのズボン姿。マスクをしておらず、青白い顔に赤い口紅が際立っていた。うつむきながら一点を見つめているようだった。
とっさの判断、募る恐怖心
「川に身を投げ出そうとしている」。悪い予感が頭によぎり、小畑さんはとっさに少女の右腕を欄干越しにつかんだ。…
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