杉田かおる・選 『童話集 幸福な王子 他八篇』=オスカー・ワイルド作、富士川義之・訳
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◆『童話集 幸福な王子 他八篇(表題作)』=オスカー・ワイルド作、富士川義之・訳
(岩波文庫 924円)
オスカー・ワイルドの童話『幸福な王子』を初めて読んだのは、小学3年生の時でした。すでに私は俳優の仕事をしていて、テレビという巨大なメディアの中でデフォルメされた「子供らしさ」を大人たちに要求されながら、それに必死で応えるという日々を送っていました。泣きたくない時も涙を流したり、泣きたい時に笑顔を作ったりと、我ながらよく頑張っていたなぁ。大好きなお芝居ではありましたが、家計を助けるための生業(なりわい)とするには、幼かった自分にとってはやはり辛(つら)いもので、現実から逃避できる台本や本を読むのが唯一の至福の時間でした。中でも特に心に響いたのが、全身を金箔(きんぱく)で覆われた王子の彫像がツバメと共に貧しい人々を助ける『幸福な王子』です。
抑えていた感情が爆発し、涙がとまらなくなる場面があります。やさしいツバメが王子の利他愛に共感し、王子の役に立とうとエジプトへ旅立つのをあきらめるところです。注釈によると、王子がツバメに「ぼくの剣からルビーをはずして」と頼むくだりは、多くの作家に影響を与えたギュスターヴ・フローベールの『聖アントワーヌの誘惑』という作品で、ブッダの若い頃であるシッダールタの姿を描いた場面からヒントを得たといわれてい…
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