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広島から発信 次世代指揮者アカデミー&コンクール初開催

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初回コンクールの第1位と細川賞に選ばれた大井駿
初回コンクールの第1位と細川賞に選ばれた大井駿

 第1回ひろしま国際平和文化祭の音楽部門のイベントとして、「次世代指揮者アカデミー&コンクール」が開催され、世界各地から14人の若い指揮者たちが広島に集った。彼らは、まず、8月5日の広島交響楽団の「平和の夕べ」コンサートを聴き、6日には平和記念式典に参加。そして、8、9日に、広島交響楽団音楽総監督であり、今回のコンクールの審査委員長である、下野竜也が講師を務める、アカデミーで研鑽(けんさん)と交流を深め、11日からの指揮コンクールに挑んだ。一次予選(11日、12日)は、ひろしま国際平和文化祭オーケストラを相手に、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」とモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」を指揮。二次予選(14日)では、一次を通過した水戸博之、高木玲音、アンヘル・ガブリエル・モリーナ・イノホサ、ロマン・レシェキン、大井駿、山上紘生、喜古恵理香の7人が、広島ウインドオーケストラを相手にモーツァルトの「グラン・パルティータ」とストラヴィンスキーの管楽八重奏曲を振った。そしてファイナリストに、レシェキン、大井、喜古の3人が選ばれた。

 本選(8月17日)では、広島交響楽団と、細川俊夫の「オーケストラのための開花Ⅱ」、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「死と変容」を共演。かなり難易度の高い課題曲といえよう。審査員は、下野のほか、沼尻竜典、四方恭子、細川俊夫、片山杜秀が務めた。

 一人目は、フランス出身のロマン・レシェキン(21)。パリ音楽院やスコラ・カントルムで学んだ俊英。レシェキンは、細川作品を滑らかな指揮で丁寧に描いた。「死と変容」も、柔らかな指揮で音楽の流れがよい。21歳でこれだけ振れるのかと感心するとともに、表現の掘り下げがほしいところもあった。

第2位となったロマン・レシェキン
第2位となったロマン・レシェキン

 二人目は、パリ、ミュンヘン、ザルツブルクで学んだ、ヨーロッパ在住の大井駿(29)。指揮だけでなく、鍵盤奏者としても活躍し、古楽のジャンルでも演奏活動を行う才人。大井は細川作品を指揮棒を持たずに振った。柔らかな1本1本の指の動きにも表情がある。「開花Ⅱ」のそれぞれの場面での音楽の変化が適切に表現されていた。「死と変容」は、思い切りの良い指揮で、推進力がある。内声部にも目配り。そして最後は美しい浄化。大井はオーケストラの音をよく聴き、よく味わっているように思われた。

 最後は、喜古恵理香(34)。東京音楽大学で学び、すでに広島交響楽団や京都市交響楽団を指揮している。細川作品は、音がクリア。楽譜をよく読み込んできたのだろう。ただし、ビートがはっきり示されすぎているようにも思われた。「死と変容」では、鮮やかな棒さばきで、流れのよい音楽を作り上げる。鮮やかで流麗なところは良いが、全体として、もう少し、かげりや味わいがほしい。

 審査の結果、大井が初代の優勝者となった。第2位はレシェキン、第3位は喜古。大井は細川俊夫による細川賞も受賞。作曲者自身による高い評価は非常に価値がある。そのほか、聴衆賞とオーケストラ賞が喜古に贈られた。

 コロナ禍のなかにもかかわらず、初回を成功させたこの指揮者コンクールが、広島から世界へ大きく発展していくことを願わずにはいられない。

第3位となり、あわせて聴衆賞、オーケストラ賞に選ばれた喜古恵理香
第3位となり、あわせて聴衆賞、オーケストラ賞に選ばれた喜古恵理香

公演データ

【ひろしま国際平和文化祭 次世代指揮者アカデミー&コンクール】

8月5日(金)~17日(水)JMSアステールプラザ、広島国際会議場フェニックスホール、他

*公式ホームページ

https://music.hiroshimafest.org/academy-concour.html

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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