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1500本以上の映画の字幕翻訳を手掛けながら、来日したハリウッドスターの通訳をしてきた戸田奈津子さん(86)が大きな転機を迎えた。7月、通訳の引退を表明したのだ。半生を振り返りながら、決断に至る胸の内を語ってくれた。
お会いしたのは、強い日差しが降り注ぐ真夏日。戸田さんはそれをものともせず、白色のシャツとパンツ姿で爽やかに決めて現れた。背筋はシャキッと伸びている。「もうこの年ですから。80代まで通訳を続けるって聞いたことある? ないでしょ? やっぱり潮時だと思ってね」。引退について尋ねると、開口一番、戸田さんは笑いながらチャキチャキと答えた。
一線を退くことを明かしたのは、86歳の誕生日である7月3日。字幕を手掛けたトム・クルーズさん主演の映画「トップガン マーヴェリック」の関連イベントに登壇した時のことだった。「この年になって100%を欠き、即座にうまく通訳できなかったら、いつも200%の力を出す努力をしているトムに申し訳ない」。クルーズさんのビデオメッセージの通訳をしたこの日が最後の仕事となった。
これに先立ち、映画公開に合わせて5月に来日したクルーズさんの記者会見では、いつもそばで通訳しているはずの戸田さんの姿はなかった。30年以上の付き合いになるクルーズさんには、その1カ月前にメールで引退を報告。彼には「もう一度やってほしい」と慰留されたが、戸田さんの決心の固さを知ると納得してくれたという。「通訳はその場ですぐ反応することを要求される。翻訳とは全くスピード感が違います。やっぱり年を取ると、いろいろと衰えていくでしょ? ドジをする前に辞めた方がいいと思ったの」
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