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あしたに、ちゃれんじ

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地元食材で住民健康に フレンチシェフ・木村信一さん(44)=中川悠 /大阪

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家具店で扱っていた椅子が残る店内で、笑顔を見せる木村信一さん 拡大
家具店で扱っていた椅子が残る店内で、笑顔を見せる木村信一さん

 家具屋通りとして有名な大阪市西区・堀江の立花通り。インテリアショップの跡地に8月、テークアウト専門のフレンチ総菜を扱う小さなお店がオープンした。「SCALE&CHEFIELD KIML′ART(スケール・アンド・シェフィールド・キムラート)」と名付けられたこのお店は、閉店した家具屋のオーナーとフレンチシェフの出会いから始まった。

 ここにあった店舗「SCALE」は1987年にオープン。東京の家具ブランド「IDEE」を中心にインテリアを販売し、家具職人の町がファッション店やカフェが集まる若者の町へと移り変わる風景を見守り続けたが、2019年に店を閉じた。

 その店頭に今、多彩な総菜が並ぶ。「富田林トマトと自家製スモークチキン」や「マクワウリの酢物」など12品。使用している野菜はすべて大阪産にこだわっている。

 「コロナ禍を解決するためには免疫力、人の生活、地球の環境を見直すべきだと思ったんです」。そう語るのはシェフの木村信一さん(44)。大手製薬会社「ロート製薬」が薬膳をテーマに運営していた大阪・梅田のフレンチレストラン「旬穀旬菜」で、料理長を長年経験してきた。

 堀江に店を開くきっかけは、家具屋のオーナーらが2008年から放送している地元のラジオ番組にゲストとして出演したこと。番組では食を巡る自身の思いを語ったが、オーナーからは堀江の歴史や活性化を望む声を聞いた。「人の暮らしに近い場所で料理を提供したいと考えていたので、堀江という町はチャレンジの場所としてピッタリでした」

 薬膳で大切にしていたことは、人の心と体、そして大地は、科学的な説明以上に結びつきが深いということだった。「地域で暮らす人の健康と、同じ土地で育った野菜や魚は相性がいいんです」。全国から食材が集まる大阪では、地元で暮らす人が地元の野菜を食べる機会が少ない。しかし、大阪府内は他地域のように単一品目でなく多品種の野菜を作っており、実は豊かな食材に恵まれている。「消費地と産地を小さな単位で循環させたい」。木村さんは、新しい夢を実現するため独立し、会社を設立した。

 堀江の町で料理を提供し始め、地元の住民から声がたくさん届いた。「夫婦共働きで、料理に追われて家族の時間が少ない」「大きな野菜の場合、一人暮らしの高齢者は食べきれない」。地域の困りごとを耳にするたび、木村さんの志は大きくなる。食材や調理方法など専門的な知識を持つ料理のプロだからこそ、地域住民の生活や健康を守れるのではないか。

 木村さんは、今まで以上に大阪府内の農家や漁港を巡り始めた。その中で、新たな展開も生まれた。大阪市西成区にある障がい者福祉施設が手掛けるシイタケ工場「よろしい茸(たけ)」では、働く障がい者の能力の高さ、シイタケのおいしさに驚いた。消費者だけでなく、生産者である障がい者にも笑顔を届けようと、シェフのプロデュース力を生かしてシイタケの加工食品も手掛けている。

 木村さんが起業する際に掲げたテーマは「EAT LOCAL LAUGH EARTH!」。地域の食材を食べて地球を笑顔に。「まずは出会うこと。そして、学ぶこと。知れば知るほど奥深い、大阪の食と文化を料理の力で盛り上げていきます」

      ◇

 「SCALE&CHEFIELD KIML′ART」 大阪市西区南堀江3の9の9。営業は月、火、木、金曜日の午後5~8時半。電話080・3156・9154。<次回は30日掲載予定>


 ■人物略歴

なかがわ・はるか

 1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から、農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。

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