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過去最大の防衛費要求 「何が必要か」議論足りぬ

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 日本の防衛に何が必要なのか。国民的な議論を欠いたまま、歯止めのない予算要求となった。

 防衛省が決めた来年度予算の概算要求は、過去最大の5兆5947億円に上った。予算額を示さずに項目だけを記載する「事項要求」も多岐にわたるため、年末に編成される防衛予算がさらに膨張するのは確実だ。

 岸田文雄首相は、5年以内に防衛力を抜本的に強化する方針を掲げている。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、東アジアでも安全保障環境が悪化するとの懸念が高まっているためだ。

 例年、各省庁の予算要求には上限が設けられているが、今回、防衛費は例外扱いとされた。

 事項要求は、相手の射程外から撃つことのできる「スタンドオフミサイル」を筆頭に、7分野に及ぶ。無人機による防衛能力、弾薬・部品などの確保による防衛力の持続なども盛り込まれた。

 スタンドオフミサイルについては、既に外国製が導入され、国産型の開発も始まっている。今回の要求では、量産・配備の前倒しも打ち出した。

 政府は島しょ防衛が目的だと説明するが、相手国内のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)としても使える。念頭にあるのは、急激な軍拡を続ける中国だ。

 日本は憲法に基づき、「必要最小限度の自衛」にとどめる専守防衛の方針を堅持してきた。反撃能力の保有は、そこから逸脱しかねないとの指摘がある。

 政府は年末までに能力保有の是非を検討するとしている。にもかかわらず、転用可能な装備の予算を確保しようとするのは、保有の既成事実化を図ることに等しい。

 岸田首相は防衛力強化について「内容と予算、財源の3点セットで考える」と繰り返すが、財源もあいまいなままだ。社会保障費の伸びが止まらない中、防衛費を野放図に増やせば、国の財政は一層悪化しかねない。

 なし崩しに防衛予算を積み増すだけでは、国民の理解は得られない。求められるのは、冷静な現状分析と、長期的な安全保障戦略の構築である。

 首相は、政策の優先順位も含めて、国会などの場で説明すべきだ。

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