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首相の「資産所得倍増」 格差是正と併せて議論を

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 富裕層の優遇策にせず、多くの国民が恩恵を受けられる仕組みにしなければならない。政権の姿勢が問われる。

 岸田文雄首相が掲げる「資産所得倍増プラン」の策定に向け、金融庁が投資促進策をまとめた。投資信託や株式への投資で得た利益を非課税にする「少額投資非課税制度(NISA)」を拡充する。

 現行のNISAは3種類あり、投資手法や適用期間などが異なる。非課税となる年間の投資枠は40万~120万円で、総額は400万~800万円となっている。

 金融庁は制度を一本化し、無期限で非課税にする案を打ち出した。投資枠も拡大するが、具体的な金額は年末までに決定する。

 家計の金融資産は2000兆円に上り、その半分強を現金と預金が占める。倍増プランは「貯蓄から投資へ」の流れを後押しし、投資による所得増で消費や経済を活性化させる狙いがある。

 将来に向けた資産形成は、特に若い世代にとって重要だ。しかし、2014年に導入されたNISAの口座数は約1800万件まで伸びたものの、投資額ゼロの利用者が目立つ。

 口座を持たない人も多い。証券業界のアンケート調査によると、その理由は「投資する気がない」「制度が複雑」が半数前後を占める。投資枠の少なさを指摘する回答は1割に満たない。

 多くの国民に利用してもらうには、複雑で分かりにくい現行制度を簡素化し、使い勝手を良くする必要がある。

 安易に投資枠を拡大すれば、富裕層に有利な制度になるだけで、資産を持たない人との格差を広げかねない。

 格差是正は、もともと岸田首相が訴えたものだ。昨秋の自民党総裁選では分配政策を経済政策の柱に据えた。年間所得が1億円を超えると税の負担率が下がる「1億円の壁」の打破にも言及した。

 しかし、発言を受けて株価が急落すると、課税の公平性を保つための金融所得課税の強化を棚上げした。

 NISAの拡充案は、金融資産や不動産で潤う富裕層への課税強化とセットで議論すべきだ。そうしなければ格差是正の取り組みに逆行しかねない。

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