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ロシアのウクライナ侵攻から、半年あまり。海の向こうで始まった戦争に、いまだに私たちは心の置き所を見つけられていないのではないか。手を伸ばそうにも届かないのに、失意ばかりが心を占める。このやるせなさを、どうすればいいの? 日常に隠れている意外な真実を、言葉によって浮かび上がらせる異能の歌人、穂村弘さん(60)に会いに出かけた。
「最近の大きな厄災は新型コロナウイルスと戦争だけど、この二つは『当事者』性が違いますよね」。土曜日の東京・吉祥寺。マスク姿の男女でにぎわう喫茶店に、穂村さんは現れた。そして、柔らかな口調で当事者性というモノサシを持ち出した。
「例えば東日本大震災は、東北と九州では被害に違いがありました。でも新型コロナは日本どころか、全世界で広がっていて、立場はみんな一緒。当事者性に濃淡がない。一方で、戦争はイラク戦争でもベトナム戦争でも、日本が参加してるわけではないから、本来は当事者性が薄かった」。ところがね、と穂村さんは続けた。
「今の時代はネットがある。新聞やテレビとは別の即時性のメディアが、僕たちにはリアルな当事者性がないくせに、すごく近くで実況を見ている感覚にさせている」。市民が殺されている戦場は、海を隔てて8000キロ以上も遠い。なのにこの戦争は、情報だけはスマートフォンの手のひらサイズで展開される。穂村さんもスマホ画面で情報を追いかけるようになった。そんな折にツイッターで話題になったのが、こんな短歌だった。
<戦争を始めた人が飼っている おれの故郷のうつくしい犬・神丘風>
実は、プーチン大統領は、愛犬家。東日本大震災でロシアが復興支援をした返礼として、日本から秋田犬が贈られていたのだ。ロシア側は、このメスの犬に日本語で「ゆめ」と名付けた。ゆめが大きく成長して、プーチン氏と戯れるシーンは、度々メディアに登場した。この短歌は、そのことを歌っていた。
「戦争を始めたからといって、ゆめが捨てられたということはないでしょう。おそらく今もかわいがられている。この歌は、…
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