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通園バスで置き去り死 教訓なぜ生かせなかった

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 通園バス内で幼い命が失われるという、痛ましい事件が繰り返された。

 静岡県牧之原市の認定こども園で、真夏日の日中、3歳の女児が約5時間もバスに置き去りにされ、熱射病で亡くなった。

 発見された際、女児の水筒は空っぽだったという。一人取り残され、どれほど不安で、苦しかったことだろう。

 きのう記者会見した73歳の理事長は「安全管理がきちんとできていなかった」と謝罪した。

 明らかになったのは、本来子どもを守るべき大人が過失を重ねていたことだ。

 園によると、本来の運転手が休んだため、理事長が代わって運転していた。だが、降車の際に園児の人数を確認するのを怠った。

 クラス担任は女児がいないことに気づいたものの、休みの可能性があると思い込んで保護者に確認しなかった。

 登園を記録するアプリが数年前から導入されているが、バスに添乗していた派遣職員は、一人一人の降車を確認しないまま入力していた。

 県警は業務上過失致死の疑いで捜査を進めている。県も園に特別監査に入る予定だ。

 昨年7月には福岡県中間市の保育園で、送迎バスに当時5歳の園児が取り残され、熱中症で死亡するという同様の事件があったばかりだ。

 国は翌月、全国の自治体を通じて、保育園や幼稚園、認定こども園などに安全管理を徹底するよう通知した。乗車時と降車時に子どもの人数を確認し、職員間で情報を共有することなどを求めた。

 今回の事件を起こした園でも、理事長が職員らに注意を呼びかけていたというが、教訓を生かせなかった。

 送迎の手順などを定めたマニュアルをつくるだけでは安全対策とは言えない。職員一人一人が子どもに対する責任を自覚しなければ、実効性を確保できない。

 ヒューマンエラーを完全になくすのは難しい。そのことを前提とした二重三重の対策が必要だ。

 同じような事件を二度と起こしてはならない。保育施設だけでなく、国や自治体も、子どもを守る対策を強化する責任がある。

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