「これでは改革につながらぬ」 有識者に聞く日野自動車不正報告

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日野自動車=村田由紀子撮影
日野自動車=村田由紀子撮影

 エンジン試験データを巡る不正問題に揺れる日野自動車が「うみ」を出し切れずにもがいている。外部有識者でつくる同社の特別調査委員会は8月2日に調査報告書を公表したが、わずか半月後の同22日には国土交通省の立ち入り調査で新たな不正が発覚した。277ページに及ぶ報告書には不正に至った経緯が詳しく盛り込まれたが、内部統制やコーポレートガバナンスに関する講演・執筆を手掛け、企業の不正問題に詳しいGBL研究所の渡辺樹一理事は「これでは改革につながらない」と指摘する。日野自の更生に欠かせないポイントは何かを探ってみた。

抜け落ちた「経営陣の意識改革」

 ――日野自が3月4日にデータ不正を発表し、特別調査委が8月2日に報告書を公表しました。報告書をどう評価しますか。

 ◆今回のデータ不正は、経営者の関与がない従業員不正とされており、経営陣の法的責任は生じないものと思われる。しかし、報告書には経営陣の意識改革についての言及がほとんどなく、他社の不正調査と比較しても淡泊で、物足りなさを感じる。報告書は不正行為の真因として①みんなでクルマをつくっていないこと②世の中の変化に取り残されていること③業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと――の三つを挙げ、それぞれの再発防止策も示している。だが、それらの上位にある根源的な真因は「日野自全体の企業風土や体質」であり、「経営陣の意識改革」を再発防止策に挙げるべきだった。経営陣が今回の問題を「従業員の問題だ」と人ごとのように考えているのではないか。

 ――経営陣の意識改革について、どのように言及すべきだったでしょうか。

 ◆2015年に東京証券取引所が導入したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の基本原則2の後段では「取締役会・経営陣は、健全な事業活動倫理を尊重する企業風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである」とされている。「取締役会・経営陣」の主体性が重要なのだが、日野自の報告書はこのことに一切、言及していない。3月4日の不正公表の際も、再発防止について「従業員一人ひとりの意識改革」としており、経営陣は関係ないと言わんばかりだ。これでは会社の改革につながらない。報告書では「経営陣の覚悟と本気度が必要」と書いてはいるが、経営陣の意識改革の必要性を再発防止策の最初に挙げてもおかしくなかった。

アンケート、記名式は不可解

 ――8月22日には新たな不正行為が判明しました。なぜ調査報告書をまとめる段階で見逃されたのでしょうか。

 ◆調査委は日野自が提供するデータの範囲内で、問題点を洗…

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