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先月のピカイチ 来月のイチオシ

毎月数多くの公演に足を運び耳を傾けている鑑賞の達人が、1カ月で最も印象に残った演奏と、これから1カ月で聴き逃せないプログラムを紹介します。

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先月のピカイチ 来月のイチオシ

セイジ・オザワ 松本フェスティバル 出色の「フィガロ」……22年8月

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 夏の音楽祭が終了し音楽界も芸術の秋、海外アーティストの来日公演もコロナ禍前の状況に戻りつつあります。そこで今月は選者の皆さんに8月に開催された公演からピカイチを、10月に予定されている公演からイチオシを紹介していただきます。

沖澤の指揮でオーケストラ、歌手陣がいかんなく力を発揮したOMFの「フィガロの結婚」(C)山田毅 2022OMF
沖澤の指揮でオーケストラ、歌手陣がいかんなく力を発揮したOMFの「フィガロの結婚」(C)山田毅 2022OMF

◆◆8月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル モーツァルト「フィガロの結婚」〉

8月27日(土)まつもと芸術館 主ホール

沖澤のどか(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ/ロラン・ペリー、ローリー・フェルドマン(演出)/サミュエル・デール・ジョンソン(アルマヴィーヴァ伯爵)/アイリン・ぺレーズ(伯爵夫人)/フィリップ・スライ(フィガロ)/イン・ファン(スザンナ)/アンジェラ・ブラウワー(ケルビーノ)他

〈大阪国際フェスティバル ロッシーニ「泥棒かささぎ」演奏会形式〉

8月9日(火)フェスティバルホール

園田隆一郎(指揮)/大阪交響楽団/老田裕子(ニネッタ)/小堀勇介(ジャンネット)/青山貴(フェルナンド)他

~OMFオペラ路線に新たな光~

 期待の若手、沖澤のどかは、驚異的な美しさと緊迫力に富んだ指揮で「フィガロの結婚」を成功させた。サイトウ・キネン・オーケストラの濃密な演奏、ロラン・ペリーの洒落(しゃれ)た演出とともに、このフェスティバルのオペラ路線に起死回生の活力をもたらしたと言ってよい。一方の「泥棒かささぎ」は演奏会形式ながら、粒のそろった歌手陣が我も我もと美声を競い合い、イタリア・オペラならではの華やかな声の饗宴(きょうえん)を繰り広げた。

◆◆10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈ロンドン交響楽団 来日公演〉

10月1日(土)フェニーチェ堺/2日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール/3日(月)札幌コンサートホールKitara/5日(水)、6日(木)サントリーホール/7日(金)東京芸術劇場コンサートホール/9日(日)北九州ソレイユホール

サイモン・ラトル(指揮)/チョ・ソンジン(ピアノ)他

(3、5、7日)ブルックナー:交響曲第7番他/(1、6日)シベリウス:交響曲第7番他/(2、9日)エルガー:交響曲第2番他

【同率】

〈パリ管弦楽団 来日公演〉

10月15日(土)東京芸術劇場コンサートホール/17日(月)、18日(火)サントリーホール/20日(木)愛知県芸術劇場コンサートホール/21日(金)岡山シンフォニーホール/23(日)フェスティバルホール

クラウス・マケラ(指揮)/アリス=紗良・オット(ピアノ)

(15、17、23日)ドビュッシー:交響詩「海」/ラヴェル:ボレロ/ストラヴィンスキー:「春の祭典」

(18、20、21日)ドビュッシー:交響詩「海」/ラヴェル:ピアノ協奏曲/ストラヴィンスキー:「火の鳥」

~海外オーケストラ シャープな音色に期待~

 海外オーケストラの来日が、堰(せき)を切ったような勢いで再開される気配だ。久しぶりに「シャープな音」が聴けるだろう。ラトルとロンドン響は相性のいいコンビだと思っていたのだが、結局今回の帯同来日が最後になってしまう。一方、マケラは先日の都響客演で日本の愛好家たちを沸き立たせたばかり。なにしろ今、20歳代半ばながら欧州の指揮界を席巻しているスターだ。音楽監督を務めるパリ管との演奏で、彼の本領が味わえるだろう。


◆◆8月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル モーツァルト「フィガロの結婚」〉

8月27日(土)まつもと芸術館 主ホール

沖澤のどか(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ/ロラン・ペリー、ローリー・フェルドマン(演出)/サミュエル・デール・ジョンソン(アルマヴィーヴァ伯爵)/アイリン・ぺレーズ(伯爵夫人)/フィリップ・スライ(フィガロ)/イン・ファン(スザンナ)/アンジェラ・ブラウワー(ケルビーノ)他

〈読売日本交響楽団 第620回定期演奏会〉

8月23日(火)サントリーホール

ユライ・ヴァルチュハ(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番/マーラー:交響曲第9番

~俊英・沖澤が存分に才能を発揮した出色の「フィガロ」~

OMFの「フィガロの結婚」は、沖澤のどかの細やかにして堂々たる指揮ぶりが際立った公演。レチタティーヴォから楽曲に移る呼吸感が見事で、音楽は終始密度が濃く、その才能に改めて感服した。歌手陣は、第1幕こそ硬かったが、皆徐々に調子を上げ、伯爵夫人の第3幕のアリアなど絶品の一語。全体に第3、4幕はこの上ない出来栄えだった。次点は迷ったが、ケフェレックの名奏とハイカロリーのマーラーに感銘を受けた読響に一票。

◆◆10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ロンドン交響楽団 来日公演〉

10月1日(土)フェニーチェ堺/2日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール/3日(月)札幌コンサートホールKitara/5日(水)、6日(木)サントリーホール/7日(金)東京芸術劇場コンサートホール/9日(日)北九州ソレイユホール

サイモン・ラトル(指揮)/チョ・ソンジン(ピアノ)他

(3、5、7日)ブルックナー:交響曲第7番他/(1、6日)シベリウス:交響曲第7番他/(2、9日)エルガー:交響曲第2番他

【同率】

〈パリ管弦楽団 来日公演〉

10月15日(土)東京芸術劇場コンサートホール/17日(月)、18日(火)サントリーホール/20日(木)愛知県芸術劇場コンサートホール/21日(金)岡山シンフォニーホール/23(日)フェスティバルホール

クラウス・マケラ(指揮)/アリス=紗良・オット(ピアノ)

(15、17、23日)ドビュッシー:交響詩「海」/ラヴェル:ボレロ/ストラヴィンスキー:「春の祭典」

(18、20、21日)ドビュッシー:交響詩「海」/ラヴェル:ピアノ協奏曲/ストラヴィンスキー:「火の鳥」

俊英クラウス・マケラがパリ管を率いて音楽監督就任後初の来日ツアーを行う (C)Mathias Benguigui / Pasco And Co
俊英クラウス・マケラがパリ管を率いて音楽監督就任後初の来日ツアーを行う (C)Mathias Benguigui / Pasco And Co

~英仏がおくる世界注目のコンビに期待~

コロナ前の活況が戻った感のある10月。お薦め公演も多いが、ここは素直に話題性抜群の海外オーケストラを同格で挙げておく。ラトル&ロンドン響は、「音楽する」喜びにあふれた2018年公演から、再来日を渇望していたコンビ。この組み合わせでは最後の日本公演だけに、ぜひ聴いておきたい。パリ管は今年26歳の新シェフ・マケラとのコラボが注目の的。都響との快演を聴けば、頑固な名門から引き出す音楽への期待はいたく募る。


◆◆8月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル〉

8月25日(木)東京オペラシティコンサートホール

ヘンデル:クラヴサン組曲第1集から第2番、8番/ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ/シューマン:交響的練習曲、他

3年ぶり待望の来日で著しい進化を見せたチョ・ソンジン (C)千葉広子
3年ぶり待望の来日で著しい進化を見せたチョ・ソンジン (C)千葉広子

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル モーツァルト「フィガロの結婚」〉

8月27日(土)まつもと芸術館 主ホール

沖澤のどか(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ/ロラン・ペリー、ローリー・フェルドマン(演出)/サミュエル・デール・ジョンソン(アルマヴィーヴァ伯爵)/アイリン・ぺレーズ(伯爵夫人)/フィリップ・スライ(フィガロ)/イン・ファン(スザンナ)/アンジェラ・ブラウワー(ケルビーノ)他

~注目の若手、著しい成長~

チョ・ソンジンの成長は期待を上回る次元に達していた。ヘンデルの組曲を一気呵成(いっきかせい)に弾いてブラームスの「ヘンデル変奏曲」に入り、関連性と相違(バロックvsロマン派)を確かな様式感で描き分け、水も漏らさない技巧だけでなく、まれにみる音色美で魅了した。シューマンの品格にも深い感銘を受けた。アンコールは何と、ショパンのスケルツォ全4曲! 恐れ入りました。松本の「フィガロ」、沖澤のどかも驚異的速度で進歩、名人オーケストラから実に生き生きとした音楽を引き出した。

◆◆10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈ロンドン交響楽団 来日公演〉

10月2日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール

サイモン・ラトル(指揮)/ユリアーナ・コッホ(オーボエ)

ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」から〝前奏曲とイゾルデの愛の死〟/R・シュトラウス:オーボエ協奏曲/エルガー:交響曲第2番

〈東京フィルハーモニー交響楽団 第976回サントリー定期シリーズ〉

10月20日(木)サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)/セバスティアン・カターナ(ファルスタッフ)/須藤慎吾(フォード)/砂川涼子(アリーチェ)/三宅理恵(ナンネッタ)/向野由美子(メグ)他

ヴェルディ:「ファルスタッフ」(演奏会形式)

~好相性のシェフ&オーケストラ~

ロンドン響シェフとしてのラトルのラストツアーはまず、彼お気に入りのミューザで聴きたい。ワーグナーとR・シュトラウス、エルガーの組み合わせは絶妙、エルガーの交響曲も演奏頻度の高い第1番ではなく、第2番を聴けるのがうれしい。両者の相性の良さは、前回の来日でも確認済みだ。チョンが日本のパートナー、東京フィルでオペラの演奏会形式を指揮して「外れた」ためしはない。キャストの人選もさることながら、ものすごい集中度で一気に聴かせてしまう力量には舌を巻く。


◆◆8月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈異才たちのピアニズム8 トーマス・ヘル〉

8月19日(金)トッパンホール

トーマス・ヘル(ピアノ)

ハイドン:アンダンテと変奏曲/権代敦彦:Diesen Kuß der ganzen Welt/矢代秋雄;ピアノ・ソナタ(1961)/ベートーヴェン:ディアベリの主題による33の変奏曲

リサイタルのほか公開マスタークラスも行い、ピアノ界へ惜しみなく力を注ぐトーマス・ヘル 写真提供:Toppanhall(C)藤本史昭
リサイタルのほか公開マスタークラスも行い、ピアノ界へ惜しみなく力を注ぐトーマス・ヘル 写真提供:Toppanhall(C)藤本史昭

〈読売日本交響楽団 第620回定期演奏会〉

8月23日(火)サントリーホール

ユライ・ヴァルチュハ(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番/マーラー:交響曲第9番

~心が浄化されたベートーヴェンとマーラー~

コロナ禍で2度延期されたトーマス・ヘルのリサイタルが実現。ディアベリ以外は今回新たに組まれ、ハイドンの変奏曲から現代曲を経て音楽の頂へ聴衆を誘う。イマジネーションあふれる名手によるベートーヴェンの革新性と思索の旅の最後は、全てが浄化されて夢からさめたような稀有(けう)な体験。

 注目の指揮者ヴァルチュハは、ケフェレックの極上のモーツァルトに寄り添うオーケストラの陰影と、マーラーでの光に満ちた静寂が印象的だった。

◆◆10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈ロンドン交響楽団 来日公演〉

10月5日(水)サントリーホール 

サイモン・ラトル(指揮)

シベリウス:交響詩「大洋の女神」、交響詩「タピオラ」/ブルックナー:交響曲第7番

ラトル&ロンドン響の来日はラストとあって、注目度も高い (C)Mark Allan
ラトル&ロンドン響の来日はラストとあって、注目度も高い (C)Mark Allan

〈新国立劇場 ヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」新制作〉

10月2日(日)、5日(水)、8日(土)、10日(月・祝)新国立劇場オペラパレス

リナルド・アレッサンドリーニ(指揮)/ロラン・ペリー(演出・衣装)/東京フィルハーモニー交響楽団/マリアンネ・ベアーテ・キーランド(ジュリオ・チェーザレ)/加納悦子(コルネーリア)/金子美香(セスト)/森谷真理(クレオパトラ)/藤木大地(トロメーオ)他

~蜜月を経て進化したラトルとロンドン交響楽団の今~

4年ぶりに来日するラトルとロンドン交響楽団、前回の親密で歓びに満ちた名演が今でも鮮やかによみがえる。ラトルがベルリン・フィルとの来日公演でも披露したブルックナーの7番が、どのような進化を遂げているか楽しみだ。

 新国立劇場シーズン開幕はコロナ禍を経て2年半ぶりにスタッフ・キャストが再集結する「ジュリオ・チェーザレ」。指揮はバロック音楽の第一人者アレッサンドリーニ、シーザーにキーランド、藤木大地ほか声の響宴に期待。


◆◆8月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈セイジ・オザワ 松本フェスティバル モーツァルト「フィガロの結婚」〉

8月21日(日)まつもと芸術館 主ホール

沖澤のどか(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ/ロラン・ペリー、ローリー・フェルドマン(演出)/サミュエル・デール・ジョンソン(アルマヴィーヴァ伯爵)/アイリン・ぺレーズ(伯爵夫人)/フィリップ・スライ(フィガロ)/イン・ファン(スザンナ)/アンジェラ・ブラウワー(ケルビーノ)他

〈読売日本交響楽団 第620回定期演奏会〉

8月23日(火)サントリーホール

ユライ・ヴァルチュハ(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番/マーラー:交響曲第9番

~若手指揮者の躍進~

今夏は世界の楽壇を背負って立つであろう若手指揮者の才能を体感できた。マケラ、シャニ、そしてセイジ・オザワ松本フェスで大成功を収めた沖澤のどか。歌に芝居に芸達者な海外歌手陣、すご腕集団のサイトウ・キネン・オケを相手にひるむことなく生き生きとした演奏に仕上げた手腕は堂々たるマエストロぶりであった。読響に客演したチェコの俊英ユライ・ヴァルチュハにも驚かされた。細部にまで意思を感じさせるコントロール力は並みの才能ではない。

◆◆10月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈NHK交響楽団 第1965回定期公演Aプログラム〉

10月15日(土)、16日(日)NHKホール

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)

マーラー:交響曲第9番

1981年の初共演以来、数々の名演を生み出すブロムシュテット&N響(C)NHKSO
1981年の初共演以来、数々の名演を生み出すブロムシュテット&N響(C)NHKSO

〈パリ管弦楽団 来日公演プログラムA〉

10月15日(土)東京芸術劇場コンサートホール/17日(月)サントリーホール/23日(日)フェスティバルホール

クラウス・マケラ(指揮)

ドビュッシー:交響詩「海」/ラヴェル:ボレロ/ストラヴィンスキー:「春の祭典」

~名匠ブロムシュテット 12年を経た解釈に注目~

 ラトル&ロンドン響、チョン&東京フィル「ファルスタッフ」など聴きたい公演が目白押しの10月だが、ブロムシュテット指揮N響定期、とりわけマーラー9番を取り上げるAプロを推したい。このコンビ、2010年4月定期でも同曲で名演を聴かせてくれた。あれから12年、95歳となった巨匠の作品解釈がどう変化したのか、興味深い。次点はマケラ&パリ管。都響とのショスタコーヴィチで異次元の演奏を披露したマケラが「春の祭典」にどんな新風を吹き込むのか楽しみである。

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