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ウクライナ侵攻

ロシア軍がウクライナに侵攻。米欧や日本は対露制裁を決めるなど対立が先鋭化しています。

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街中のウクライナ避難者、日常の光景に ポーランド、細る支援

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4月にクラクフ市内で生まれた三女ドミニカちゃんを抱くユリアさん。手にしているのは新しいスマートフォンの箱。避難生活中に壊れたため、JCFが新しい端末を提供した=2022年7月25日(宮永匡和さん提供) 拡大
4月にクラクフ市内で生まれた三女ドミニカちゃんを抱くユリアさん。手にしているのは新しいスマートフォンの箱。避難生活中に壊れたため、JCFが新しい端末を提供した=2022年7月25日(宮永匡和さん提供)

 NPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」(JCF、長野県松本市)が、ロシアによるウクライナ侵攻で避難した母子への支援を続けている。ポーランド南部の古都クラクフでは、同市在住27年の画家、宮永匡和さん(51)が臨時スタッフとして活動する。8月24日で侵攻が始まって半年となったが、クラクフでは当初の手厚かった支援が一部で縮小し、市民らの「支援疲れ」ともいえる状況が目立ってきたという。宮永さんは「小さな支援でも継続が大切」と長期的な取り組みを見据えている。

 ウクライナ国境から約260キロ離れた人口約78万人のクラクフ。8月24日、市内に半年間、避難していたウクライナ人のユリアさん母子が、ウクライナ西部リビウの自宅に戻った。宮永さんや友人が支援してきて「戦争が終わったら帰りたい」と話していた。当面は避難生活を続けるものと考えていた宮永さんらにとって、予期せぬ帰国だった。

ポーランドのクラクフ 拡大
ポーランドのクラクフ

 妊娠8カ月のユリアさんが、11歳と8歳の娘とクラクフにたどり着いたのは3月初旬。何のつてもなく、「子供を安全な場所へ」と国境を越えた。持ち物はスーツケース2個だった。宮永さんら支援者の間で「妊婦がいる家族が避難してきた」と情報が出回った。友人の家族が所有するアパートに空き部屋があり、すぐに受け入れた。友人とともに寝具や台所用品、衣類などを届けた。宮永さんは4月にJCFからの依頼で臨時スタッフになり、ユリアさんを支援対象とした。同月12日に三女ドミニカちゃんが生まれた後は、おむつやベビーカーなどを継続的に提供していた。

 見送りに立ち会った友人は、ユリアさんから「時折鳴り響く警報におびえる生活」か「慣れない街での先の見えない避難生活」かで悩んでいたことを聞いた。帰国の主な理由は、夫と離れて言葉が通じない街での避難生活に疲れたことと、長女と次女が9月から新学期を迎えることだという。ユリアさんは「夫はウクライナを守るために国内にとどまり、前線で戦っている」と話していた。宮永さんと友人はそれらに加えて、経済的な不安が大きかったのではないかと推し量る。

クラクフの援助物資配給所に列を作るウクライナからの避難者=2022年7月11日(宮永匡和さん提供) 拡大
クラクフの援助物資配給所に列を作るウクライナからの避難者=2022年7月11日(宮永匡和さん提供)

 ポーランド政府は、避難者にアパートを貸し出す家主に対して、避難時から半年間、家賃などに充てる支援金を支給している。ユリアさんの場合は8月末で終了し、9月以降も住み続ける場合は、家賃を自費で払う必要があった。宮永さんは、支援金終了をきっかけにやむなく帰国した家族が他にもいると聞いており、ユリアさんが金銭的に厳しくなることは想像できた。

 リビウに着いたユリアさんからは「ありがとう。感謝します」とのメッセージが宮永さんのスマートフォンに届いた。9月9日にユリアさんから送られてきたメッセージによると、時々鳴り響く警報に子供たちがおびえて眠れないときもあるが、それ以外は比較的平穏な毎日を送っているという。

クラクフの援助物資配給所に届けるためにJCFからの送金で買い出しした衛生用品など=2022年8月30日(宮永匡和さん提供) 拡大
クラクフの援助物資配給所に届けるためにJCFからの送金で買い出しした衛生用品など=2022年8月30日(宮永匡和さん提供)

 ポーランドへは、7日までに約609万人のウクライナ人が避難し、このうち約430万人が既に帰国した。今も1日平均2万5000人が国境を越えて避難してくるが、帰国する人も同様に多い。ポーランドを通過して他国に避難する人もおり、約130万人が国内にとどまっているとみられる。その93%が女性と子供。クラクフには4万~5万人がいるという。

 宮永さんによると、クラクフには侵攻開始から数日のうちに避難者が姿を見せた。多くは民間アパートに入った。アパートが見つからなかった人は、解体予定だった旧ショッピングモールなど市内5カ所に設けられた集団避難所や、一部の部屋を個室避難所に転用した市営の福祉施設に身を寄せた。民間団体によって衣類配給所や、食料と衛生用品などの援助物資配給所もできた。

クラクフの小学校で、ウクライナの子供たちに折り紙を紹介する宮永さん=2022年6月13日(宮永匡和さん提供) 拡大
クラクフの小学校で、ウクライナの子供たちに折り紙を紹介する宮永さん=2022年6月13日(宮永匡和さん提供)

 宮永さんは避難者から必要な物を聞いてJCF事務局に報告し、JCFからの送金で援助物資を購入する。それを衣類配給所や援助物資配給所に届けるほか、ユリアさんのようにつながりができた家族に個別に届けてきた。また、避難者の子供が多い小学校では、文房具や上履きを子供に配り、その親には使い道が自由なクーポン券(3000円相当)も提供。さらに子供と家族のリフレッシュのために遠足や見学旅行なども企画してきた。

 そうした中、宮永さんはポーランド国民の「戦争」への関心が薄れ始めていると感じている。侵攻から1~2カ月は多くのポーランド人がボランティアを担ったが、5月ごろから減り始めた。テレビのニュースでもウクライナ関連の話題は減りつつある。「街中に避難者がいる光景は『非日常』だったのが、『日常化』し始めています」

クラクフの小学校で、ウクライナから避難した低学年の子供に文房具を届けた=2022年6月13日(宮永匡和さん提供) 拡大
クラクフの小学校で、ウクライナから避難した低学年の子供に文房具を届けた=2022年6月13日(宮永匡和さん提供)

 小学校などが夏休みに入った6月下旬からは、援助物資配給所で物資が少なくなった。主に市民個人から届けられる物資に頼っていたが、8月に倉庫が空になりかけたという。8月30日に買い出しした援助物資を届けに行った際、以前は配給所前に避難者の列ができていたのが、配給所内に避難者が2人だけ。スタッフによると「避難生活が2カ月未満の人のみが利用可能」と運用が変更されたという。利用できる避難者が減ったため、棚には多くの物資がそろい、在庫が増えているという。

 衣類配給所は8月末で一時閉鎖し、10月の移転再開を目指している。民間団体が温かい食事を作って提供していた配給所は8月で閉鎖された。個室避難所を設けていた市営福祉施設は9月から通常運営に戻るため、8月で避難所を閉じた。

クラクフの小学校に通うウクライナの子供たちが、JCFの支援で学校の修学旅行に参加し、ポーランド北西部のバルト海に面する街を訪ねた=2022年5月27日(宮永匡和さん提供) 拡大
クラクフの小学校に通うウクライナの子供たちが、JCFの支援で学校の修学旅行に参加し、ポーランド北西部のバルト海に面する街を訪ねた=2022年5月27日(宮永匡和さん提供)

 いま深刻なのは住居の問題という。クラクフ市内の多くのアパートの賃貸契約は、最低1年間。しかし、政府の支援金が半年間のため、避難者が支給期間が終わった後も自費で住み続けるかはっきりしないケースが少なくない。大家の中には「支援」と「経営」とのジレンマに悩む人が出てきている。

 宮永さんは「いま、ある避難者家族のアパートを探していますが、どの不動産業者に聞いても、『ウクライナからの避難者に貸す部屋はない』と言われる」と困惑する。

8月30日のクラクフの援助物資配給所の様子。「避難生活が2カ月未満の人のみが利用できる」という運用に変わり、利用者が少なかった。一時は倉庫が空になりかけたが、在庫は増えているという=2022年8月30日(宮永匡和さん提供) 拡大
8月30日のクラクフの援助物資配給所の様子。「避難生活が2カ月未満の人のみが利用できる」という運用に変わり、利用者が少なかった。一時は倉庫が空になりかけたが、在庫は増えているという=2022年8月30日(宮永匡和さん提供)

 物価上昇も避難生活を圧迫する。宮永さんによると、食料品などの価格はこの半年間で約1・5倍になっているという。

 宮永さんは、ポーランド人の「支援疲れ」ともいえる状況について「ポーランドは避難者を最も多く受け入れ、できる限りのことをしてきました。自分たちの生活もあり、非難できません」と理解を示す。その上で、「ウクライナ東部からの避難者などには戦争が終わっても帰る場所がない家族もいます。身近にいる避難者の要望に応え、確実に届く支援をしていきたい」と話している。【遠藤和行】

JCFの臨時スタッフとしてウクライナからの避難者を支援する画家の宮永匡和さん=2022年9月8日(宮永さん提供) 拡大
JCFの臨時スタッフとしてウクライナからの避難者を支援する画家の宮永匡和さん=2022年9月8日(宮永さん提供)

日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)

 1991年に設立し、チェルノブイリ原発事故で放射能に汚染された地域の医療支援をしてきた。ロシア侵攻後の3月初旬にウクライナ国内、ポーランド、ブルガリアで、主に母子避難者の支援を開始。賛同した多くの個人から寄付が集まり、2月28日~8月31日の合計は約7757万円に上る。このうち、7月に自治労から2500万円が寄せられた。JCF設立時から理事長を務めた医師で作家の鎌田實さん(74)は今年7月、顧問に退き、事務局長の神谷さだ子さん(69)が新理事長に就いた。

宮永さんがJCFからの送金で購入し、クラクフの援助物資配給所に届けた食料や衛生用品=2022年6月4日(宮永匡和さん提供) 拡大
宮永さんがJCFからの送金で購入し、クラクフの援助物資配給所に届けた食料や衛生用品=2022年6月4日(宮永匡和さん提供)

 ※JCFのウクライナ支援の情報はこちら

宮永匡和(みやなが・まさかず)

 1970年大分県生まれ。95年3月に筑波大大学院修士課程芸術研究科を修了後、同年9月から青年海外協力隊としてクラクフ近郊の文化センターに3年間、派遣された。現在、画業のかたわら美術館での展覧会デザインなどに関わる。JCFとは、鎌田前理事長が2000年にクラクフから西約70キロにあるアウシュビッツ収容所を訪れた際に案内し、その後、交流を続けてきた。

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