犀川のほとりで むかご=室生洲々子 /石川

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 雨傘にこぼるる垣のむかごかな

 この祖父の句は関東大震災後、祖母の実家に仮寓(かぐう)していた頃、作ったものと思われる。金沢では、庭に実のなる木を植える家が多いらしい。祖母の実家にも、無花果(いちじく)や柿の木があったと聞いたことがある。きっと、零余子(むかご)もあったのだろう。

 母と二人、小さいマンションの7階に住んでいた頃、ベランダから大家さんが住む6階の屋上が見えた。そこは小さな庭になっていて、多くの草花が育てられていた。四季折々に花が咲き、母はそれを眺めて楽しんでいた。ある時、「あら、零余子だわ」と大きな声がした。6階へつながる非常階段の、絡まった蔓(つる)に零余子を発見。食いしん坊の母は、「ご飯にすると美味しいのよ。今度大家さんにお願いして、作ってあげるわね」と、零余子をわけて貰うつもりでいる。私は、「また変な事を言い出したなぁ」と思いながら、相手にはしていなかった。今では母のこの思いつきが、実現しなかったことを残念に思っている。

 数十年後、金沢に住むようになり、スーパーの野菜売り場でグレーの小さな丸い物を見つけた。何だろうと値札を捜すと、「むかご」と書いてあった。私は売っている「むかご」を初めて見た。母が言ったように、ご飯に入れて炊いて見ようかと思ったが、上手に作る自信がないのでやめた。

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