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欧米で物価上昇(インフレ)が猛威を振るっている。物価上昇率は10%に近い水準に達しており、各国中央銀行の目標を大きく上回る。ただ、歴史を振り返ると、今とは比べものにならない天文学的なペースで物価が上昇するハイパーインフレを経験した先進国がある。1920年代のドイツだ。当時の経験は現在にどう生かされ、何を学べるのか。物価研究を続ける独マンハイム大学のクラウス・アダム教授(経済学)に聞いた。【聞き手・宮川裕章】
ドイツ人の決意
――山ほどの紙幣を荷車で運んだり、価値のなくなった紙幣を壁紙に使ったり、20年代にドイツを席巻したハイパーインフレは日本でも知られています。何がきっかけだったのですか?
◆第一次世界大戦中にインフレは始まっていたが、ハイパーインフレのきっかけは23年のフランス軍によるルール地方進駐だ。賠償金を支払えない敗戦国ドイツに対し、フランス軍はこの地方の鉄鋼産業が生み出す利益を吸い上げようとした。現地の労働者はフランスに抵抗するためストライキを起こし、ドイツ政府は労働者への給料を紙幣の増刷で保証した。その結果、ハイパーインフレが始まった。
――紙幣を大量に刷ったことでマルク(当時のドイツ通貨)の価値が低下したのですね?
◆ドイツの通貨が価値を失ったのは、この時だけではない。第二次世界大戦後にも激しいインフレで金融システムが機能しなくなり、人々は米国製のたばこなどで物々交換する事態に追い込まれた。この二つの経験が、このようなことを二度と繰り返さないというドイツ人の決意につながり、徹底したインフレ対策というドイツ連邦銀行の強固な伝統を生んだ。
ECBが受け継ぐドイツ流
――ドイツ連銀はインフレ・ファイターとして名をはせました。その政策文化を引き継いだのが欧州中央銀行(ECB)だと言われます。
◆多くの点が引き継がれている。まず、物価の安定がECBの最優先目標として掲げられている点がある。…
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