24時間や48時間でなく NHK「ドキュメント72時間」の魅力
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NHKの金曜夜の番組「ドキュメント72時間」が、毎週のレギュラー放送になって10年目を迎えた。番組には明確なテーマ設定はなく、主人公もいない。決めた場所を訪れた人たちに3日間カメラを向け、耳を傾け続ける。「偶然の出会い」から生み出される番組は、なぜ長い間支持されているのだろうか。【青島顕】
「芸能人でも有名人でもない、普通の人たちが語るリアルなエピソードを、自分の置かれた状況と重ね合わせて見る人が多いのだと思います。私自身もはっとさせられることがあります」。2020年8月から番組の制作統括を務める篠田洋祐さん(43)は話す。
05年、東京・渋谷駅前のコインロッカーを利用する人たちに3日間マイクを向けた番組が評判になり、06年秋から半年間毎週1回放送した。その後は不定期に放送したが、13年4月には金曜午後11時前からの25分(現在は30分)番組として定着。年末にはその年のベスト10を放送するようになった。
番組のルールは①72時間以内に撮り終えて追加撮影をしない②出会った人の順に時系列を崩さずに放送する――とシンプルだ。伝統的なテレビのドキュメンタリーが、作り手の設定したテーマに沿って、時間をかけて登場人物と人間関係を深めて取材していくのに対し、「72時間」は初対面の人に一発勝負で取材する。断られることもあるが、受け入れてくれた人には無理に話を聞き出そうとせず、丁寧にコミュニケーションを取っていくという。ロケ地を入念に調査し、撮影開始の曜日と時間を決めることで「撮影開始後に番組が成立しなかったことは、私が知る限り一度もありません」(篠田さん)。
新型コロナウイルス禍によって、人と人との間に距離を取らなければならなくなったことは、密着取材型の番組にとって、大きな試練になっている。20年2月末~6月末の4カ月間撮影がストップ。21年には、飲食店での撮影が緊急事態宣言で直前に中止になった。その後も、初対面の人と話しやすい居酒屋などの取材が成立しなくなっている。篠田さんは「できなくなったこともあるけれど、たくましく生き抜く人の姿や生活の変化を捉えることもできた。結果的に今の日本を知ることができた面もあります」と前向きに考えている。
なぜ「72時間」なのか。「1日だと短くて番組を成立させるのが難しく、5日だと長すぎて緊張感が続かない。そうした議論の中で丸3日間=72時間に。やってみて、ちょうど良い時間が後から分かってきたという感じです」と説明する。
録画視聴者を含めた「世帯総合視聴率」は平均すると6%前後で一定の支持を得ているという。視聴者から寄せられた「72時間は社会をのぞく窓である」という言葉を篠田さんは気に入っている。今月30日の放送でレギュラー化されて333回目を迎える。
歴代ベストワンは?
NHKはこの夏、視聴者の投票で13年のレギュラー番組化以来の歴代ベスト10を…
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