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安倍晋三元首相銃撃

2022年7月8日、演説中の安倍元首相が銃撃され、死亡しました。その後の「国葬」にも疑念が…。

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「失敗許されない」 安倍氏国葬、かつてない緊張感で臨む厳戒警備

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安倍晋三元首相の国葬を前に会場となる日本武道館周辺を視察した警察庁の露木康浩長官(中央)=東京都千代田区で2022年9月21日午前10時39分、宮武祐希撮影 拡大
安倍晋三元首相の国葬を前に会場となる日本武道館周辺を視察した警察庁の露木康浩長官(中央)=東京都千代田区で2022年9月21日午前10時39分、宮武祐希撮影

 日本武道館(東京都千代田区)で27日、安倍晋三元首相の国葬が執り行われる。「わずかな失敗も許されない」。国葬反対の声が強まりつつある中、警備や要人警護を担う警察当局は、いくつもの懸念材料に対処しながら、かつてない緊張感を持って国葬に臨む。

プレッシャー

 「国葬の警備は警察の存在意義そのものが問われる。全職員が肝に銘じ、全身全霊で取り組んでもらいたい」

 8月下旬、警視庁幹部らが出席した国葬をめぐる会議で、大石吉彦警視総監がこう語りかけた。

 安倍氏銃撃を受け、警察の信頼は大きく揺らいだ。国葬でテロ行為などを許せば、さらなる失墜につながりかねない。「今までにないプレッシャーがある」。警察庁幹部は、現在の庁内の様子をこう表現する。

 警察関係者によると、東京を管轄する警視庁のほか、全国の警察から約1900人の派遣を受け、都内で5月に開かれた日米豪印4カ国による協力の枠組み「クアッド」首脳会議の約1万8000人態勢を上回る規模で警備に当たる。

 すでに警視庁は今月20日から都内の警戒レベルを引き上げており、厳戒態勢に入りつつある。

要人の日程決定遅く

 ただ、警備の現場では対応に苦慮する場面も多い。

 一つは海外要人らの日程調整だ。

警視庁機動隊のバス(奥)。手前は訓練の様子=東京都江東区で2021年11月2日午後2時7分、斎藤文太郎撮影 拡大
警視庁機動隊のバス(奥)。手前は訓練の様子=東京都江東区で2021年11月2日午後2時7分、斎藤文太郎撮影

 国葬には218の国・地域などから約700人が参列する予定で、国内からの約3600人と合わせ、総参列者数は計4300人程度が見込まれている。

 しかし、1週間前になっても要人の来日日程や宿泊先は固まらなかった。「いったん決定しても、その後変更されることもあった」(警察庁幹部)といい、そのたびに、計画を練り直すことになった。

 国葬後、迎賓館(東京都港区)で要人らを招いて行事を開くことも、警備を難しいものとした。迎賓館で行事が始まるまでは数時間の空き時間がある。そのため、いったん宿泊先に戻る要人も多く、宿泊先から日本武道館、宿泊先から迎賓館など複数の「動線」の計画策定を同時並行で進めることが求められた。

 こうした調整が続いたため、国葬当日の一般道を含む交通規制の全体像の公表は何度も延期となった。22日にやっと公表されたが、警視庁幹部は「道路を通行止めにすることは市民生活への影響が大きい。一刻も早く周知したかったが、計画が固まりきらなかった」と話す。

DJポリスの出番は

 葬儀ならではの配慮も求められている。

 警察関係者によると、立ち入り規制区域などを示すために道路に置かれる赤と白の三角コーンは「お祝いの色と見られかねない」として会場周辺ではなるべく使わず、他の色のコーンで代用することを検討している。

 また、青と白のデザインの警視庁機動隊のバスについても、政府内から「葬儀にそぐわない」という声が上がり、現場は困惑したという。

 拡声マイクで通行人らを誘導する「DJポリス」も「これまでのようなやり方で話しかけることはない。会場の雰囲気に合わせた警備になる」と警察幹部は明かす。現場の機動隊員が談笑する姿は葬儀にそぐわないとして、いつも以上に「挙動に気をつけろ」との指示も出ているという。

ローンウルフ対策

 国葬開催への反対機運が高まっていることも懸念材料だ。

安倍晋三元首相の国葬で一般献花台が設置される九段坂公園=東京都千代田区で2022年9月21日午前10時54分、松本惇撮影 拡大
安倍晋三元首相の国葬で一般献花台が設置される九段坂公園=東京都千代田区で2022年9月21日午前10時54分、松本惇撮影

 国葬当日は、日本武道館周辺で過激派とも関連が深い団体などによる複数の抗議デモが予定され、国葬に賛同する団体などとの衝突も危惧される。

 最も警戒するのは特定の組織に属さない「ローンウルフ(一匹オオカミ)」の動きだ。国葬反対の機運に触発されることで、その脅威は一層高まる。警視庁の警備担当者は「『これだけ反対されている国葬なら何をしても受け入れられる』と思い込む人物が出る恐れもある」と指摘する。

 21日には、東京・永田町の首相官邸近くの路上で、国葬反対を訴える70代の男性が自らに火を放ち、一時騒然となる場面もあった。

 警察当局は、インターネット上の書き込みのチェックなど情報収集を強化。周辺には制服を着た警察官が多く配置され、日本武道館近くの九段坂公園で行われる一般献花の前には手荷物検査も実施される。ある幹部は「やる前に見つける、あるいはやる気をそぐことに尽きる」と強調する。

 安倍氏の遺骨を乗せた車両の移動ルートは公表されていないが、自宅と日本武道館を移動する沿道に市民が集まる可能性もある。

 7月に「家族葬」として執り行われた葬儀では、会場の増上寺(東京都港区)周辺の沿道に多くの人が詰めかけた。警視庁幹部は「7月は好意的な人ばかりだったと思うが、今回はそうならないだろう」と話し、投てき物などへの警戒を強める。

性悪説で検証

 銃撃事件を受け、警察庁の関与を大幅に強める新たな「警護要則」が制定された。

要人の警護計画作成を巡る流れ 拡大
要人の警護計画作成を巡る流れ

 警察庁幹部は「警察庁の新たな基準では従来の相場観よりも多めの人数を配置することになっており、それが今回の計画に反映された」と説明。安倍氏の事件で想定されていなかった銃撃については、ビルなど高所からのものも含めて計画に盛り込んでいるといい、「『想定外』はないようにしている」と強調する。

 さらに新警護要則により、警察庁はチェックリストに沿って以前よりも厳密に「警備の結果」を確認することになる。

 警備畑の警察庁幹部は「これまでも警備実施後の見直しをやっていなかったわけではないが、『何も起きなかったら100点』という感覚があった」と率直に明かす。来年5月には広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)を控えており、別の幹部は「ヒヤリハットを含め『性悪説』で今までより踏み込んだ検証をし、サミットの警備につなげていきたい」と話している。【松本惇、斎藤文太郎、高井瞳】

【安倍晋三元首相銃撃】

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