「滋賀のラピュタ」に苦渋の柵 無断侵入相次ぎ住民ら 土倉鉱山跡

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ルールを守り、土倉鉱山第3選鉱場跡前で愛車を撮影するライダー=滋賀県長浜市木之本町金居原で2022年9月17日午前10時39分、長谷川隆広撮影 拡大
ルールを守り、土倉鉱山第3選鉱場跡前で愛車を撮影するライダー=滋賀県長浜市木之本町金居原で2022年9月17日午前10時39分、長谷川隆広撮影

 宮崎駿監督のアニメ映画に登場する「天空の城ラピュタ」に雰囲気が似ていることから、ネット交流サービス(SNS)などで「滋賀のラピュタ」とも呼ばれる土倉(つちくら)鉱山第3選鉱場跡(滋賀県長浜市木之本町金居原)。閉山から半世紀以上たち、建物はいつ崩れてもおかしくない危険な状況だが、「インスタ映え」するとして無断で侵入して撮影する人たちが後を絶たない。地元住民らは事故を防ぐため侵入防止用の柵の設置に踏み切る苦渋の決断をした。

 土倉鉱山は銅採掘のため1910(明治43)年に操業が始まり、50年代には鉱山労働者やその家族らで1000人を超える集落もできたが、65(昭和40)年に閉山した。鉱山跡は長浜市の中心部から車で約50分の豊かな森に囲まれた山深い場所にあり、近くには樹齢400年を誇るトチノキの巨木群もある。

「映え」求めて1日100人超

2021年に建物への不法侵入を防止するために張られたロープと案内表示=滋賀県長浜市木之本町金居原で2022年9月14日午後3時10分、長谷川隆広撮影 拡大
2021年に建物への不法侵入を防止するために張られたロープと案内表示=滋賀県長浜市木之本町金居原で2022年9月14日午後3時10分、長谷川隆広撮影

 滋賀県や長浜市などの委託を受けて周辺の保全活動をしている「ながはま森林マッチングセンター」によると、SNSの普及とともに10年ほど前から廃虚が森にのみ込まれたような独特の雰囲気が話題となってコスプレファンや車・バイク好きなどの「マニア」が集まるようになったという。多い時では1日に100人超が訪れるが、鉱山跡は私有地で途中の道路は狭く、十分な駐車スペースもないなど観光地として整備されているわけではない。

 一番の問題は「映える」写真を求めて、廃虚となった選鉱場跡に立ち入る人がいることだ。2020年には同センターや地元有志で作る「金居原の歴史と森を守る会」が選鉱場跡の前に立ち入り禁止の看板を立て、翌年には立ち入り禁止の表示を付けたロープを張る対策も取った。その結果、数は減ったものの、今も「侵入者」は絶えないという。昨年まで十数年にわたり鉱山跡の監視役を務めてきた「守る会」会長の山田洋さん(73)は「コンクリートの床下に機械が入っていた空間が複数あるはずだが、床の鉄筋は弱っており、いつ陥没するか分からない」と危険性を指摘する。

 同センターなどは、地域振興も兼ねて定期的に現地で小規模ツアーを開催し、一帯の歴史や巨木群保護などについて啓発を続けている。ガイドする橋本勘さん(46)は「観光地として大量消費されることにはそぐわない場所。観光を拒否しているわけではないが、たくさんの人が来ればマナーの問題も出てくる」と頭を悩ます。

転落、救急車の出動騒ぎも

柵を設置する位置をロープで示す「金居原の歴史と森を守る会」の山田洋会長=滋賀県長浜市木之本町金居原で2022年9月14日午後3時9分、長谷川隆広撮影 拡大
柵を設置する位置をロープで示す「金居原の歴史と森を守る会」の山田洋会長=滋賀県長浜市木之本町金居原で2022年9月14日午後3時9分、長谷川隆広撮影

 21年9月には鉱山跡を所有するニッチツ(東京都港区)も交え、増える来訪者への対応について協議した。ニッチツは「地域振興に役立つなら外から見る分には構わないが、中には決して入らないでほしい」との立場。過去には無断で立ち入った男性が転落、救急車が出動する騒ぎも起きており、「今のままでは心配」との声も出た。

 結局、ニッチツの意向も踏まえ、選鉱場跡への侵入を防ぐ柵を設置することを決定。事業費は県が負担し、早ければ10月中、遅くとも年内には選鉱場跡前に高さ1・6メートル、横幅61メートルの黒い柵が設置される。

 17日からの3連休もたくさんの人が選鉱場跡を訪れていた。愛知県江南市から夫婦でバイクツーリングに来た50代男性は「インスタ映えする場所を求めて来た。バイク仲間に聞いた通りとても雰囲気がある」と話し、早速写真をSNSに投稿。柵の設置には「私たちは撮影で建物内には入らないので、いい写真が撮れなくなるのは残念」。

 滋賀県栗東市の木村優輝さん(27)と妻友梨さん(26)もカスタマイズしたスポーツタイプ多目的車(SUV)で訪れ、選鉱場跡を背景に愛車を撮影していた。初めて訪れた昨年12月にインスタグラムに投稿すると、県内外の人から「場所を教えて」などと多くの反響があったという。友梨さんは「絵になる建物のすぐ前で車と一緒に写真を撮れる場所はあまりなく、絶好の写真スポット」と話し、「柵が設置されると、撮影の時に写り込むので絵にならなくなる」と残念がっていた。

 橋本さんは「無粋な柵を立てるのは苦渋の選択。『インスタ映え』はしなくなるかもしれないが、柵の手前でマナーを守って撮影を楽しんでほしい」と呼び掛けている。【長谷川隆広】

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