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あす安倍氏「国葬」 首相の浅慮が不信広げた

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 安倍晋三元首相の「国葬」があす行われる。日を追うごとに反対論が広がる異様な状況下での実施となる。

 銃撃事件の衝撃が冷めやらぬ中、岸田文雄首相は国会に諮ることなく閣議決定した。民主政治の手続きを欠いた対応が、国民の不信を招く結果となった。

 安倍氏をなぜ国葬とするのか。最大の疑問は直前になっても解消されていない。

 そもそも、明確な基準や法的根拠がないまま、政治家の国葬を実施することには問題が多い。

 首相は「時の政府が総合的に判断するのが、あるべき姿だ」と強調した。これでは、恣意(しい)的な運用がまかり通ってしまう。

 戦後に首相経験者の国葬が行われたのは、1967年の吉田茂元首相だけだ。その際も内閣の一存で決めたことが問題となった。

 80年の大平正芳元首相以降は、政府と自民党が費用を折半する「合同葬」が主流となった。野党の理解を得る「政治の知恵」だったが、首相はその慣例をないがしろにした。安倍氏を支持する保守層に配慮して拙速に決めたのだとすれば、浅慮と言うほかない。

 反対論が強まったのは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏の密接な関わりが明らかになったことも一因だ。そうした人物を国葬とすることは、教団と「関係を絶つ」と宣言した自民の方針と矛盾する。

 首相は国葬とした理由と経緯を「丁寧に説明する」と言いながら、その責任を果たしていない。決定から1カ月半もたって行われた国会質疑でも、従来の説明を繰り返すだけだった。

 毎日新聞の最近の世論調査で、「反対」は62%に上り、「賛成」は27%にとどまった。国会質疑後に反対が増えたのは、首相が説明するほど疑問や矛盾が浮き彫りになったからではないか。

 野党第1党の立憲民主党は執行役員が欠席を決め、自民の閣僚経験者にも出席を見合わせる動きが出ている。国葬が国民の分断を深めている形だ。

 世論に配慮して政府は各自治体などに弔意の協力を求めず、もはや国葬とは名ばかりだ。葬儀の形式にこだわり、追悼する環境を損なった首相の責任は重い。

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