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本郷 和人・評『合戦で読む戦国史』伊東潤・著

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実証を追求しつつ物語を紡ぐ歴史家

◆『合戦で読む戦国史』伊東潤・著(幻冬舎新書/税込み1100円)

 明治前期の日本史学会において、日本史学のみならず天下の碩学(せきがく)として知られた重野安繹(やすつぐ)と川田剛(たけし)とのあいだに、歴史認識の方法に関する大議論が起きた。重野は実証を徹底した「科学的な」日本史を提唱した。史実の復元は価値の高い史料を中心に行うべきであり、客観性に乏しい『太平記』などの軍記物語の類いは学問の素材として用いるべきではない、とする。一方の川田は、『太平記』を否定しては、日本人の精神も滅びてしまう。史料的価値が低いものであっても、工夫して用いれば歴史像が豊かになる、と論じた。論争は紆余(うよ)曲折の末に重野の勝利となり、川田は野に下る。

 現代の日本史学では当然「実証」を大切にする。だが、重野の立場をあまりに厳密に継承しようとすると、日本史はやせ細り、面白さを失う。日本人の精神とまではいわないが、工夫した実証を重視する川田のやり方が今こそ必要ではないか。単なる歴史資料の翻訳ではない、良質な物語性を持つ日本史が望まれているのではないか。そしてそれができる数少ない一人が、歴史研究者であり作家でもある伊東潤という人である。

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