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吉村知事らが推した「大阪ワクチン」 キーマンが語る撤退の理由

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「大阪ワクチン」の開発を断念した「アンジェス」本社が入る建物=大阪府茨木市で2022年9月28日午後3時28分、田畠広景撮影
「大阪ワクチン」の開発を断念した「アンジェス」本社が入る建物=大阪府茨木市で2022年9月28日午後3時28分、田畠広景撮影

 大阪大発の製薬ベンチャー「アンジェス」(大阪府茨木市)が、新型コロナウイルスワクチンの開発を中止した。いち早く開発に名乗りを上げたところに、吉村洋文・大阪府知事らの「前のめり」とも取れる言動が重なり「大阪ワクチン」への期待が高まった。同社の株価は急騰。巨額の補助金も投入され、常に話題が先行したあげくの撤退となった。では、どこでつまずいたのか。開発のキーマンらに迫った。【田畠広景、菅沼舞、矢澤秀範、石川将来】

開発のキーマン「準備不足だった」

 「ワクチンの量、接種方法、接種期間という基本的な検討が十分できていなかった。そういう意味で準備不足は否定できない」。アンジェス創業者で現在はメディカルアドバイザーを務める森下竜一・大阪大寄付講座教授は毎日新聞の取材に対し、ワクチンの開発断念について経緯を語った。

 アンジェスは森下教授が1999年に創業。子会社も含めた従業員は約130人のベンチャー企業だ。2019年に国内初の遺伝子治療薬「コラテジェン」を実用化した。これまでワクチン開発を手がけた経験はなかったが、コロナ禍が始まってすぐの20年3月、いち早くワクチン開発の方針を表明した。

 厚生労働省は20年6月、国産ワクチン開発に向けた補助金の助成事業の公募を開始。塩野義製薬や第一三共など製薬大手と並んでアンジェスも選ばれ、厚労省などから計約75億円が投入された。アンジェスと大阪大、タカラバイオの共同研究グループ全体では約130億円に上る。

 米ファイザーや米モデルナが開発したワクチンは、遺伝情報を含む物質・メッセンジャー(m)RNAを投与することで、ウイルスを攻撃する抗体をつくる。一方、アンジェスが開発を目指したのは、DNAによってウイルスの遺伝情報を体内に送り込む「DNAワクチン」だった。同社の山田英社長は取材に「これまでの遺伝子治療薬の開発で、DNAを扱うノウハウや技術を蓄積していた。可能性は十分にあると考えていた」と強調する。

 アンジェスは20年6月末、中国・武漢を起源とする新型コロナの従来株を念頭に、大阪市立大(現大阪公立大)医学部付属病院で、臨床研究を開始。数百人規模の臨床試験の最終段階まで進んだ。だが、感染や重症化の防止につながる抗体は十分に増えなかった。

 開発で足踏みを続ける間、ファイザーなどは20年末以降、ワクチン開発に成功し、mRNAワクチンは一気に全世界に広がった。森下教授によると、日本国内でもワクチン接種が進んだため、臨床試験に参加できる未接種の人を募るのが難しくなった側面もあった。そんな中、ウイルスは変異を繰り返し、従来株をターゲットにしたワクチン開発の意義は薄れていった。

 アンジェスは21年11月、投与量を増やすなどして臨床試験を仕切り直した。それでもファイザーなどの性能には及ばず、22年9月に開発中止を発表した。森下教授は「ワクチン開発の体制が十分ではなかった。その間にmRNAワクチンが認可され、出遅れてしまった」と振り返った。ただ今後も、オミクロン株の「BA・5」などを対象にしたDNAワクチンの開発を続けるという。

 補助金について、アンジェスは「国の監査の結果、返還すべき補助金があれば返還する」と説明。ただ、厚労省の担当者は「補助金はハード整備に使われており、基本的にほとんど戻ってこないだろう」とみている。

政治が後押し、株価が高騰

 アンジェスのワクチン開発を巡っては、医薬品開発に対する行政の関わり方や情報発信のあり方にも課題を残した。

 「早ければ7月に治験を始め、9月に実用化、年内に10万~20万人に接種する。これは絵空事ではない」

 2020年4月、吉村洋文・大阪府知事は記者団に対し、アンジェスのワクチン開発が約半年後には実現する…

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