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「美容室に通うお客様の髪の毛には、一本一本にドラマがあるのです」。そう話すのは美容師の福岡宏信さん(49)。3年以上を費やして学校に通い直し、自らが研究者となって商品を開発した。「どんな髪質も改善したい」という思いと共に、体にも環境にも配慮したヘアケア製品。自身のブランド「BRILL HAIR(ブリルヘア)」から10月1日に発売する。
娘が生まれた5年前に強く感じたのは、食の安全性と同じく、シャンプーやリンスに使われている成分への疑問だった。娘の体への影響はないのだろうか。環境や自然への配慮があるのか。米国やヨーロッパには、シャンプーや化粧品に含まれる成分の内容、環境配慮をすぐ調べられるアプリまである。体や自然に最大限配慮したヘアケア商品を日本で作れないだろうか。
ただ、いきなり壁に当たった。例えば化粧品を製造し、出荷するには、品質や安全を管理する「総括製造販売責任者」や製造現場を管理する「化粧品製造所責任技術者」といった有資格者が要る。「自分には薬品開発の知識が足りない」と痛感。福岡さんは一念発起し、働きながら分析化学を学ぶ専門学校に入学した。
「40代後半からの学び直しは、想像以上に大変でした」。仕事と子育てだけでなく、講義や実験、レポートの毎日。学校に通い続けた2年間は嵐のように過ぎていった。今年3月、卒論が受理された。職場のスタッフや家族に卒業証書を見せ、感謝を伝えることができた。
商品開発のヒントになったのが、在学中に知ったブラジルのサトウキビ農園だ。ここは児童労働の防止、環境に配慮した農地管理などを徹底していた。サトウキビの糖液と酵母菌を混ぜたものには、毛髪に潤いを与え、修復する効果がある。この農園のサトウキビを新商品の主成分として扱うことにした。アレルギーやアトピーのリスクは、できる限り取り除くことを目指した。防腐剤のほか、環境への影響も考慮してマイクロプラスチックも一切使わないことを決めた。
完成させたのは、風呂上がりに髪に付けて乾かすだけのナイトクリーム(税込み6600円)。「今回使用した23成分のうち22成分が、米国の環境団体EWGの安全指数で最も安全性が高いとされているもの。髪だけでなく、動物や自然、地球環境を大切にするために自信を持って送り出した」と胸を張る。ブランド名「BRILL」は英語の話し言葉で「最高!」という意味。「きれいな髪の毛は最高のドレス」がコンセプトだ。
環境に対する意識が高まりつつある日本だが、基準が一番厳しいといわれるEUでは禁止成分が1600以上に達する。「いつか、日本の米や竹から作る油などメード・イン・ジャパンの素材だけで、世界からも認めてもらえるような商品を作りたいですね」。49歳の新たな挑戦が幕を開けた。
ウェブサイト(https://brillhair.com/)
■人物略歴
なかがわ・はるか
1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から、農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。
次回は11月11日掲載予定