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認知症の妻と8年 「失敗してもいい」編み出した介護手法は

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「夫婦でシルバーライフを楽しんでいます」。野田さんはパソコンで医師に提出する報告書を作るなどして介護に取り組んでいる=2022年9月22日午後3時54分、銭場裕司撮影(画像の一部を加工しています)
「夫婦でシルバーライフを楽しんでいます」。野田さんはパソコンで医師に提出する報告書を作るなどして介護に取り組んでいる=2022年9月22日午後3時54分、銭場裕司撮影(画像の一部を加工しています)

 認知症のある人とともに歩む家族は、時には気持ちの面で苦しくなってしまうこともあります。人によって環境は異なりますが、明るさを失わない家族の経験談はひとつの希望になるかもしれません。ある男性は会社員時代に身に付けたスキルをいかし、自分なりの介護方法を試行錯誤しました。その8年の思いに耳を傾けます。【東京社会部・銭場裕司】

 「いろんなことがありましたが夫婦でシルバーライフを楽しんでいます」。東京都大田区の野田肇さん(77)は現在の暮らしをそう語る。振り返ってみると、5歳年下の妻の調子が優れず、原因もはっきりしない診断前の時期が一番つらかった。2013年12月に妻が認知症と診断されると「勉強してやっていけばいい」と覚悟を決めることができた。

 認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会――。診断当時に行政側から受け取った資料には、施策の方向性がそう書かれていた。野田さんはこの流れに乗っていこうと考えたという。

 症状があることは近所の人や友人、行きつけのスーパーなどに伝えた。トラブルがあった時には連絡をもらうこともできる。「認知症は特別なことではなく、みんな手を貸してくれました。オープンにしていくべきですね」

時には「まあーいっかー!」

 野田さんは建設機械メーカーで長年勤め、生産の管理や、工場の生産ライン作りに携わった。その経験を妻の介護でもフルにいかしている。見せてくれたのは、ありたい姿とそのために何をしていくかをまとめた「作戦表」だ。

 最初に出てくるのは「ホップ」(準備)だ。そこには、自身が持つ覚悟として、妻の暮らしやすさを中心にすることを記している。続くのは「ステップ」(計画)。妻が自分でご飯を食べ、トイレに行けて、笑顔で会話し、地域に溶け込んだ生活を送る、という具体的な姿を思い描いた。

 思い通りにいかないことが起こるのは、仕事も介護も同じだ。野田さん流介護のしなやかさは、作戦表の実施段階にあたる「ジャンプ」(日常の介助)にある。…

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